WADA禁止リストのペプチド一覧(競技者向け)

2026年WADA禁止表でペプチドがどこに分類されるかを競技者向けに整理。S2(ペプチドホルモン・成長因子)とS0(未承認物質)の違い、EPO・hCG・GH・GHRP・イパモレリン・CJC-1295・BPC-157・TB-500などの扱いと、検査・TUEの考え方を解説します。

WADA禁止リストのペプチド一覧(競技者向け)

結論(3行)

WADA(世界アンチ・ドーピング機構)の禁止表において、ペプチドは主に「S2 ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」と「S0 未承認物質」の2区分で扱われる。 いわゆる「回復系ペプチド」(BPC-157、TB-500など)は医薬品として承認されていないため S0 に該当し、GH分泌促進系(GHRP、イパモレリン、CJC-1295、セルモレリンなど)は S2 に明記されている。 どちらも「常に禁止(競技会時・競技会外を問わず)」であり、治療使用特例(TUE)は未承認物質には事実上適用されない。

WADA禁止表とは

WADA禁止表(Prohibited List)は、毎年改訂され1月1日に発効する国際基準です。2026年版は2025年9月のWADA理事会で承認され、2026年1月1日に発効しました。日本では日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が日本語訳を公開しています。

禁止表は「常に禁止される物質(S0〜S5)」「競技会時に禁止される物質(S6〜S9)」「禁止方法(M1〜M3)」などに分かれます。ペプチドに関係するのは主に S0 と S2 です。

S0 と S2 の違い

区分 定義 ペプチドの例
S0 未承認物質 いかなる政府規制当局にも人の治療目的で承認されていない薬理学的物質(臨床開発中、開発中止、デザイナードラッグ、動物用のみ承認など) BPC-157、TB-500(チモシンβ4断片)、その他の研究用ペプチド全般
S2 ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質 赤血球生成刺激剤、ペプチドホルモン、成長ホルモンとその放出因子、成長因子など EPO、hCG、GH、GHRH類、GHRP類、GHS類、IGF-1、MGF ほか

ポイントは、S0 は「物質名を列挙しない包括規定」だということです。WADAは近年の説明資料で BPC-157 を S0 の例として明示していますが、名前が載っていないペプチドでも「どの国でも医薬品として承認されていない」なら自動的に S0 に該当します。「リストに書いていないからセーフ」という理屈は成立しません。

S2 に含まれる主なペプチド(2026年版の整理)

赤血球生成刺激剤(ESA)

物質 備考
エリスロポエチン(EPO)、ダルベポエチン、EPO模倣ペプチド 持久系競技で古くから問題になる。承認薬だが競技者には常に禁止
HIF活性化剤(ロキサデュスタットなど) ペプチドではないが同じ S2.1 に分類

ペプチドホルモン・放出因子(主に男性競技者で禁止されるもの)

物質 備考
絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、黄体形成ホルモン(LH)とその放出因子 男性のみ禁止。テストステロン分泌を促すため
コルチコトロピン(ACTH)とその放出因子

成長ホルモンとその断片・放出因子

物質 備考
成長ホルモン(GH、ソマトロピン)、GH断片(AOD-9604、hGH 176-191など)
成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)とそのアナログ:CJC-1295、セルモレリン、テサモレリン テサモレリンは米国承認薬(Egrifta)だが競技者には禁止
成長ホルモン分泌促進物質(GHS):グレリン、グレリン模倣物質(アナモレリン、イパモレリン、マシモレリン、タビモレリン)
成長ホルモン放出ペプチド(GHRP):GHRP-2(プラルモレリン)、GHRP-6、ヘキサレリン、アレキサモレリン、レノレリン

成長因子・成長因子調節因子

物質 備考
IGF-1 およびそのアナログ(メカセルミンなど)
機械的成長因子(MGF)
線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、チモシンβ4 とその誘導体(TB-500) チモシンβ4/TB-500 は S2 の成長因子として例示されており、かつ未承認物質として S0 にも該当する

2026年版では、S2 の例示が整理・追加されています。特定の名称の有無で判断せず、「類似の化学構造または生物学的作用を持つ物質」もすべて含む、という規定の読み方が重要です。

競技者がよく誤解するポイント(ペプチ堂管理人の読み)

僕が海外のフォーラムを見ていて一番危ういと感じるのは、「BPC-157は自然由来だから禁止薬物ではない」「サプリ扱いだから大丈夫」という言説です。WADA は BPC-157 を明確に S0 の例として挙げていますし、2020年代に入って複数のドーピング違反事例が報告されています。サプリメントと称して売られている製品に混入していても、検出されれば競技者の責任(厳格責任の原則)です。

もうひとつ。GLP-1受容体作動薬(セマグルチド、チルゼパチド)は、2026年版でも禁止表に入っていません。WADA は監視プログラムで動向を見ていますが、現時点では禁止対象外です。「ペプチドだから全部アウト」ではなく、「どの区分に該当するか」を一つずつ確認する、というのが正しい態度です。

逆に、承認薬でも競技者には禁止されるものがあります。EPO、GH、テサモレリン、インスリン(S4.3 ホルモン及び代謝調節剤)はその代表です。「医師が処方したから」はTUE(治療使用特例)を取得していない限り免責になりません。

検査で検出されるか

GHRP類やGHRH類、BPC-157 は、アンチ・ドーピング機関が尿中代謝物や質量分析法で検出する手法を既に確立しています。ここ数年、WADA認定ラボの論文(Thomas A. ら、Drug Testing and Analysis 誌など)で検出法が報告され続けており、「検出されないから安全」という前提は崩れています。

よくある質問

Q. BPC-157 は WADA 禁止物質ですか? A. はい。医薬品として未承認のため S0(未承認物質)に該当し、常に禁止されます。WADA 自身が S0 の例として BPC-157 を明示しています。

Q. S0 と S2 のどちらが重いのですか? A. 制裁上の扱いは基本的に同じで、どちらも「特定物質ではない」非特定物質として扱われる傾向があり、初回違反で最長4年の資格停止となり得ます。区分の違いは「なぜ禁止か」(未承認か、ホルモン作用か)の違いです。

Q. セマグルチド(GLP-1)はドーピングになりますか? A. 2026年版禁止表には含まれていません。ただし監視プログラムの対象となる可能性があるため、最新版を確認してください。

Q. 競技者でなければ関係ないですか? A. アンチ・ドーピング規則は競技者に適用されるものです。ただし「未承認物質」という事実は競技者以外にも同じで、安全性が確立していない点は変わりません。

Q. TUE(治療使用特例)は取れますか? A. 承認薬(GH、インスリン等)は正当な医学的理由があれば申請できます。未承認物質(S0)は承認された治療ではないため、TUE の要件を満たせません。

一次情報

  • World Anti-Doping Agency「The 2026 Prohibited List」International Standard(2025年9月承認、2026年1月1日発効)
  • World Anti-Doping Agency「2026 Prohibited List: Summary of Major Modifications and Explanatory Notes」
  • 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)「世界アンチ・ドーピング規程 2026年禁止表国際基準」日本語版
  • USADA「Athlete Advisory: BPC-157」
  • Thomas A., Thevis M. ほか「Detection of growth hormone releasing peptides in doping control」Drug Testing and Analysis(各年)
本記事は研究・教育目的の情報提供です。医学的助言ではありません。最終更新:2026-08-22