競技者、これは禁止

WADA禁止リストのペプチド一覧(競技者向け)

2026年WADA禁止表でペプチドがどこに分類されるかを競技者向けに整理。S2(ペプチドホルモン・成長因子)とS0(未承認物質)の違い、EPO・hCG・GH・GHRP・イパモレリン・CJC-1295・BPC-157・TB-500などの扱いと、検査・TUEの考え方を解説します。

執筆:ペプチ堂管理人/最終更新:2026-10-11

WADA禁止リストのペプチド一覧(競技者向け)

結論(3行)

WADA(世界アンチ・ドーピング機構)の禁止表において、ペプチドは主に「S2 ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」と「S0 未承認物質」の2区分で扱われる。 いわゆる「回復系ペプチド」(BPC-157、TB-500など)は医薬品として承認されていないため S0 に該当し、GH分泌促進系(GHRP、イパモレリン、CJC-1295、セルモレリンなど)は S2 に明記されている。 どちらも「常に禁止(競技会時・競技会外を問わず)」であり、治療使用特例(TUE)は未承認物質には事実上適用されない。

WADA禁止表とは

WADA禁止表(Prohibited List)は、毎年改訂され1月1日に発効する国際基準です。2026年版は2025年9月のWADA理事会で承認され、2026年1月1日に発効しました。日本では日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が日本語訳を公開しています。

禁止表は「常に禁止される物質(S0〜S5)」「競技会時に禁止される物質(S6〜S9)」「禁止方法(M1〜M3)」などに分かれます。ペプチドに関係するのは主に S0 と S2 です。

S0 と S2 の違い

区分定義ペプチドの例
S0 未承認物質いかなる政府規制当局にも人の治療目的で承認されていない薬理学的物質(臨床開発中、開発中止、デザイナードラッグ、動物用のみ承認など)BPC-157、TB-500(チモシンβ4断片)、その他の研究用ペプチド全般
S2 ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質赤血球生成刺激剤、ペプチドホルモン、成長ホルモンとその放出因子、成長因子などEPO、hCG、GH、GHRH類、GHRP類、GHS類、IGF-1、MGF ほか

ポイントは、S0 は「物質名を列挙しない包括規定」だということです。WADAは近年の説明資料で BPC-157 を S0 の例として明示していますが、名前が載っていないペプチドでも「どの国でも医薬品として承認されていない」なら自動的に S0 に該当します。「リストに書いていないからセーフ」という理屈は成立しません。

S2 に含まれる主なペプチド(2026年版の整理)

赤血球生成刺激剤(ESA)

物質備考
エリスロポエチン(EPO)、ダルベポエチン、EPO模倣ペプチド持久系競技で古くから問題になる。承認薬だが競技者には常に禁止
HIF活性化剤(ロキサデュスタットなど)ペプチドではないが同じ S2.1 に分類

ペプチドホルモン・放出因子(主に男性競技者で禁止されるもの)

物質備考
絨毛性ゴナドトロピン(CG)、黄体形成ホルモン(LH)S2.2.1「男性におけるテストステロン分泌促進ペプチド」として明記
GnRH(ゴナドレリン)とその作動薬アナログ:ブセレリン、デスロレリン、ゴセレリン、ヒストレリン、リュープロレリン、ナファレリン、トリプトレリン同上。前立腺がん等の治療薬も含まれる
キスペプチンとその作動薬アナログ2026年版の S2.2.1 に明記されている
コルチコトロピン(ACTH)とその放出因子:コルチコレリン、テトラコサクチドS2.2.2

成長ホルモンとその断片・放出因子

物質備考
成長ホルモン(GH)とそのアナログ:ロナペグソマトロピン、ソマパシタン、ソマトロゴンS2.2.3
GH断片:AOD-9604、hGH 176-191S2.2.3 に名指しで例示
GH放出ホルモン(GHRH)とそのアナログ:CJC-1293、CJC-1295、セルモレリン、テサモレリンS2.2.4。テサモレリンは米国承認薬(Egrifta)だが競技者には禁止
GH分泌促進物質(GHS)とその模倣物質:アナモレリン、カプロモレリン、イブタモレン(MK-677)、イパモレリン、レノモレリン(グレリン)、マシモレリン、タビモレリンS2.2.4
GH放出ペプチド(GHRP):アレキサモレリン、エキサモレリン(ヘキサレリン)、GHRP-1、GHRP-2(プラルモレリン)、GHRP-3、GHRP-4、GHRP-5、GHRP-6S2.2.4

成長因子・成長因子調節因子

物質備考
IGF-1(メカセルミン)およびそのアナログS2.3
機械的成長因子(MGF)S2.3
線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)S2.3
チモシンβ4 とその誘導体(例:TB-500)S2.3 に「Thymosin-ß4 and its derivatives e.g. TB-500」と名指しで例示。加えて未承認物質として S0 にも該当する

S2.3 は末尾に「筋・腱・靭帯のタンパク質合成/分解、血管新生、エネルギー利用、再生能力、線維型の切り替えに影響するその他の成長因子または成長因子調節因子」と定めており、列挙されていない物質も対象になります。

2026年版では、S2 の例示が整理・追加されています。特定の名称の有無で判断せず、「類似の化学構造または生物学的作用を持つ物質」もすべて含む、という規定の読み方が重要です。

競技者がよく誤解するポイント(ペプチ堂管理人の読み)

僕が海外のフォーラムを見ていて一番危ういと感じるのは、「BPC-157は自然由来だから禁止薬物ではない」「サプリ扱いだから大丈夫」という言説です。WADA は BPC-157 を明確に S0 の例として挙げていますし、2020年代に入って複数のドーピング違反事例が報告されています。サプリメントと称して売られている製品に混入していても、検出されれば競技者の責任(厳格責任の原則)です。

もうひとつ。GLP-1受容体作動薬(セマグルチド、チルゼパチド)は、2026年版でも禁止表に入っていません。WADA は監視プログラムで動向を見ていますが、現時点では禁止対象外です。「ペプチドだから全部アウト」ではなく、「どの区分に該当するか」を一つずつ確認する、というのが正しい態度です。

逆に、承認薬でも競技者には禁止されるものがあります。EPO、GH、テサモレリン、インスリン(S4.3 ホルモン及び代謝調節剤)はその代表です。「医師が処方したから」はTUE(治療使用特例)を取得していない限り免責になりません。

検査で検出されるか

GHRP類やGHRH類、BPC-157 は、アンチ・ドーピング機関が尿中代謝物や質量分析法で検出する手法を既に確立しています。ここ数年、WADA認定ラボの論文(Thomas A. ら、Drug Testing and Analysis 誌など)で検出法が報告され続けており、「検出されないから安全」という前提は崩れています。

2027年版でも変更なし(本稿でUSADA公式ページを直接確認)

WADAは2026年9月、2027年1月1日発効の「2027年禁止表」を公表しました。本稿がUSADA(米国アンチ・ドーピング機構)の公式ページを直接確認したところ、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド・チルゼパチド)は2027年版でも禁止表には加えられず、引き続き「モニタリングプログラム」(制裁なしで使用動向を検査機関が追跡する枠)に留まっています。

一方、BPC-157・TB-500・AOD-9604・hGH 176-191・GHRP類・CJC-1293・チモシンβ4は、2027年版のS0(未承認物質)区分に名指しで列挙され、禁止が継続しています。「痩せ薬は検査対象外になり、回復系の未承認ペプチドは禁止され続ける」という非対称な構図は、2026年版から変わっていません。

よくある質問

Q. BPC-157 は WADA 禁止物質ですか? A. はい。医薬品として未承認のため S0(未承認物質)に該当し、常に禁止されます。WADA 自身が S0 の例として BPC-157 を明示しています。

Q. S0 と S2 のどちらが重いのですか? A. 制裁上の扱いは基本的に同じで、どちらも「特定物質ではない」非特定物質として扱われる傾向があり、初回違反で最長4年の資格停止となり得ます。区分の違いは「なぜ禁止か」(未承認か、ホルモン作用か)の違いです。

Q. セマグルチド(GLP-1)はドーピングになりますか? A. 2026年版・2027年版(2027年1月1日発効)のいずれの禁止表にも含まれていません。ただし両年とも監視プログラムの対象であり、WADAが使用動向を注視している段階です。

Q. 競技者でなければ関係ないですか? A. アンチ・ドーピング規則は競技者に適用されるものです。ただし「未承認物質」という事実は競技者以外にも同じで、安全性が確立していない点は変わりません。

Q. TUE(治療使用特例)は取れますか? A. 承認薬(GH、インスリン等)は正当な医学的理由があれば申請できます。未承認物質(S0)は承認された治療ではないため、TUE の要件を満たせません。

一次情報

  • World Anti-Doping Agency「The 2026 Prohibited List」International Standard(2025年9月承認、2026年1月1日発効)。本ページの S2 の記載は、この公式PDFの S2.1〜S2.3 を直接参照して作成しています. https://www.wada-ama.org/sites/default/files/2025-09/2026list_en_final_clean_september_2025.pdf
  • World Anti-Doping Agency「2026 Prohibited List: Summary of Major Modifications and Explanatory Notes」
  • 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)「世界アンチ・ドーピング規程 2026年禁止表国際基準」日本語版
  • USADA「Athlete Advisory: BPC-157」
  • Thomas A., Thevis M. ほか「Detection of growth hormone releasing peptides in doping control」Drug Testing and Analysis(各年)
  • USADA「Athlete Advisory: What’s New on the 2027 WADA Prohibited List?」(本稿でWebFetch直接確認。GLP-1のモニタリングプログラム継続、BPC-157等のS0継続を記載). https://www.usada.org/spirit-of-sport/athlete-advisory-2027-prohibited-list/
本記事は研究・教育目的の情報提供です。医学的助言ではありません。最終更新:2026-10-11