速報2026-08-23

世界最大の治験データベースに「模擬試験」と書かれた登録が並んでいた BPC-157・MOTS-c の「治験開始」は取り消します

ClinicalTrials.gov に登録されたBPC-157・MOTS-c・TB-500・GHK-Cu・メラノタンIIの「第II相試験」を精査したところ、同一スポンサー名義の8件が同じ施設・同じ担当者・スポンサー名と一致しないメールドメインで登録され、うち1件はタイトルが「(Mock Study)」で終わっていた。ペプチ堂も一度この登録を信じて記事を書き、公開した。その訂正と、登録の見分け方を記録する。

出典:ClinicalTrials.gov(米国立医学図書館)API による全件確認

米国立医学図書館が運営する世界最大の臨床試験登録データベース ClinicalTrials.gov に、実体が疑わしい登録がまとまって存在することが分かった。対象はいずれも、日本語圏でも話題になる未承認ペプチドである。

最初に、はっきり書いておく。**ペプチ堂はこの登録を一度信じ、「BPC-157 と MOTS-c にヒト試験が始まった」という趣旨の記事を公開した。あれは誤りだった。**この記事は、その訂正でもある。

何が見つかったか

きっかけは、ある登録のタイトルだった。

Tesamorelin for Reduction of Liver Fat in Adults With Fatty Liver Disease (Mock Study)

NCT07481734。末尾の「(Mock Study)」は、日本語にすれば「模擬試験」である。試験の名前として、これは通常あり得ない。

この登録のスポンサーは Hudson Biotech。同じスポンサー名義の登録を API で全件洗い出し、1件ずつ照合したところ、次の共通点が出てきた。

確認項目8件すべてに共通していたこと
実施施設Peking University Shenzhen Hospital の1か所のみ
連絡先同一担当者、メールは @beijing-biotech.com
ドメインスポンサー名「Hudson Biotech」と一致しない
更新履歴全件、初回登録後にまったく更新されていない

さらに、内容そのものにも整合しない点があった。1件はイーライリリーの開発コード LY3437943(レタトルチドの社内名)を他社名義で登録しており、別の1件は第III相・目標2,539人という設計が、リリーが実際に行った SURMOUNT-1 の目標登録数と完全に一致していた。

該当したペプチド

この8件の中に、当サイトが扱う成分の「治験」がまとめて含まれていた。

成分登録番号精査後の判断
BPC-157NCT07437547信頼できない。ヒト介入試験は依然ゼロ
MOTS-cNCT07505745同上。ゼロ(MOTS-c を測るだけの観察研究はある)
GHK-CuNCT07437586同上。実質ゼロ
メラノタンIINCT07437560同上。ゼロ
TB-500NCT07487363同上。ただし TB-500 には別途、実在する試験がある(後述)

TB-500(チモシンβ4フラグメント)については、これとは別に実在の試験が確認できる。点眼薬 RGN-259 の第III相(NCT05555589、ReGenTree)と、急性心筋梗塞を対象とする注射剤 NL005 の第II相(NCT07586865、北京ノースランド、未開始)である。ただしどちらも「TB-500 を怪我に打つ」試験ではない。回復目的の裏付けとして引くことはできない。

なぜ登録できてしまうのか

ClinicalTrials.gov の登録は自己申告制である。研究者や企業が登録フォームに入力した内容が掲載される仕組みで、FDA や NIH が事前に内容を審査して承認しているわけではない。データベースの側にも「この登録は検証されたものではない」という前提が置かれている。

つまり「NCT番号がある」ことは「その試験が実在し、実施されている」ことを意味しない。ここを取り違えると、今回のように「治験が始まった」という誤った記事ができあがる。

当サイトの誤りについて

ペプチ堂は8月22日、MOTS-c のページで「ヒトへの介入試験は事実上ゼロ」としていた記述を「2026年2月に第II相が始まった」に書き換え、公開した。BPC-157 についても同様の書き換えをローカルで用意していた。

いずれも、上記の登録を根拠にしたものである。登録が API で取得できることは確認したが、誰がその登録を行ったのかを確認しなかった。 機械的に照合したことで、かえって裏を取った気になっていた。

該当箇所はすべて撤回し、元の「ヒトでの質の高い試験はほぼない」という記述に戻した。BPC-157・MOTS-c・GHK-Cu・メラノタンII について、結果はおろか、信頼できる進行中の介入試験も、現時点では存在しない。

治験登録を引くときに見るべき6点

同じ間違いを避けるために、今回使った確認項目を残しておく。

  1. スポンサー名 — 実在する企業・研究機関か
  2. 実施施設の数 — 多施設をうたう試験が1か所しかないのは警戒
  3. 連絡先メールのドメイン — スポンサー名と一致しているか
  4. 最終更新日 — 登録後まったく更新されていないものは警戒
  5. 目標登録数 — 有名試験の数字と完全一致していないか
  6. 開発コード — 他社の開発コードを名乗っていないか

そして最後に、結果が査読論文として公表されているか。試験が始まったことと、効果が示されたことは、まったく別の話である。

出典

  • ClinicalTrials.gov(米国立医学図書館)。本記事の8件は同サイトの公開APIで全レコードを取得し、スポンサー名・実施施設・連絡先・登録日・更新日を照合した(2026年8月23日時点)
  • NCT07481734(タイトル末尾に “(Mock Study)” の記載). https://clinicaltrials.gov/study/NCT07481734
  • 該当登録:NCT07437547(BPC-157)/NCT07505745(MOTS-c)/NCT07437586(GHK-Cu)/NCT07437560(メラノタンII)/NCT07487363(TB-500)/NCT07481747・NCT07467447(GLP-1系)
  • TB-500 関連の実在試験:NCT05555589(RGN-259 点眼薬・第III相・ReGenTree)/NCT07586865(NL005 注射・第II相・北京ノースランド・未開始)
  • 関連ページ:BPC-157MOTS-cTB-500海外ペプチド情報の見分け方

関連:bpc-157mots-ctb-500

本記事は海外の一次情報を日本語で要約した速報です。医学的助言ではありません。執筆:ペプチ堂管理人