MOTS-c

別表記:MOTSc/モッツシー/ミトコンドリア由来ペプチド

運動を注射する、と言われるペプチド

運動の代わりになると期待されたミトコンドリア由来ペプチド

MOTS-c
どこまで確かめられたか
  1. 試験管・理論
  2. 動物実験
  3. ヒト試験
  4. 承認

細胞・動物実験と、ヒトでの観察研究が中心。ヒトでの介入試験は事実上なし

日本とアメリカで使えるか
JP未承認
US未承認

未承認。調剤用バルク原薬としては、カテゴリー2に置かれた後に指名が撤回された状態。2026年7月23〜24日の諮問委員会(PCAC)は 503A バルクリスト収載を推奨(6成分の一つとして推奨)。PCAC の投票に拘束力はなく、収載が決まったわけではない

知っておくべきリスク

ヒトでの安全性データ・長期データが存在しない

日本では未承認。健康被害が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

MOTS-cの最新ニュース6

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何者? ミトコンドリアDNAが作る16アミノ酸。運動したときと同じスイッチを押すと言われる。

海外では? 「運動の代わりになる分子」としてバイオハッカーに人気。

日本では? 未承認。ヒトに投与した試験は事実上ゼロです。

結局、なにをする成分?

MOTS-c は、2015年に南カリフォルニア大学の Lee らが報告したペプチドです。名前は「Mitochondrial ORF of the 12S rRNA type-c」に由来します。

発見そのものが驚きでした。

それまで、ミトコンドリアDNAは呼吸鎖の部品や tRNA・rRNA をコードするだけだと考えられていました。ところが 12S rRNA 遺伝子の内部に、さらに短いタンパク質コード領域が入れ子状に隠れていた。そこから翻訳された16アミノ酸のペプチドが、細胞の外にも出て全身に作用する——という報告が出たのです。

ミトコンドリアが「ホルモンのようなシグナル分子」を出している。生物学的にはかなり大きな話でした。

作用の中心とされるのが AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)です。

AMPK は、エネルギーが枯渇したときに活性化して、糖の取り込みや脂肪の燃焼側にスイッチを切り替える酵素です。運動やメトホルミンが働くときの経路としても知られています。家の電力が足りなくなったとき、自動で節電モードに切り替えるブレーカーのようなものです。

MOTS-c は葉酸-メチオニン回路に干渉して AMPK を活性化する、という機序が提唱されています。加えて、ストレス時に細胞核へ移行し、抗酸化応答配列(ARE)を持つ遺伝子群の発現を調節するという報告もあります。

「運動模倣(エクササイズ・ミメティック)」という言葉が付いて回るのは、このためです。ただしこの呼び名は研究者のたとえであって、運動と同じ効果がヒトで確認されたという意味ではありません。

なぜ海外でバズってるのか

理由はひとつだと思っています。「運動を模倣する」というフレーズが独り歩きしたことです。

運動が体にいいことは誰でも知っています。運動が続かないことも、誰でも知っています。

そこに「運動と同じスイッチを押す分子」というコピーがはまった。英語圏のバイオハッカー界隈で MOTS-c が語られるときの文脈は、ほぼ例外なく「運動の代替」です。

で、効くの?

研究の段階到達中身
ヒト(介入)×質の高いランダム化比較試験は公表されていません
ヒト(観察)○運動後に骨格筋および血中の MOTS-c が増加したと報告(Reynolds ら 2021)
ヒト(遺伝疫学)○日本人集団で MOTS-c 領域の m.1382A>C 多型と長寿の関連が示唆(Fuku ら 2015)
動物(マウス)○高脂肪食による肥満・インスリン抵抗性の軽減(Lee ら 2015)、高齢期の投与で身体パフォーマンス指標の改善(Reynolds ら 2021)
細胞(試験管)○AMPK 活性化、インスリン感受性関連経路の変化、核移行による抗酸化応答遺伝子の調節(Lee ら 2015)

大事なのは一番上の行です。

細胞と動物では10年分の積み上げがあります。ヒトでも「運動すると内因性の MOTS-c が増える」という観察はあります。しかし「外から MOTS-c を入れたら人間の何かが良くなった」を示した対照試験は、公表文献の範囲では見当たりません。

ヒトでの薬物動態試験もほぼ公表されていません。

ヤバい点は?

  • 既知の副作用リストが作れません。 ヒトでの安全性データが事実上ないからです。「安全だから報告がない」のではなく、「調べられていないから何も分かっていない」という状態です。
  • AMPK は増殖や代謝の中枢スイッチです。慢性的に押し続けたときの影響は評価されていません。
  • 免疫原性(外来ペプチドに対する抗体産生)の懸念があります。
  • 品質の問題。 海外の未承認ペプチドは製造管理の外にあり、純度・不純物・エンドトキシンについて第三者が保証していません。
  • 日本では未承認であり、個人輸入した製品で健康被害が生じても医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

日本と米国の今

日本米国
医薬品としての承認なし(未承認)なし(未承認)
位置づけ医薬品として承認されていないため、健康被害が生じても医薬品副作用被害救済制度の対象外2023年に 503A 調剤用バルク原薬の Category 2(重大な安全性リスクの懸念)へ分類。2026年4月に同区分から一旦外され、2026年7月の薬局調剤諮問委員会(PCAC)で再審議の対象となった
サプリメント扱い不可不可

米国の動きは「安全性が確認された」という意味ではありません。Category 2 に置かれていたペプチド群について指名が撤回され、あらためて専門委員会が「調剤用の原料として認めるか」を個別に審議した——という段階です。委員会の投票に拘束力はありません。

ペプチ堂管理人の本音

僕が MOTS-c を面白いと思うのは、効きそうだからではありません。「ミトコンドリアDNAがシグナル分子を出している」という発見そのものが、素直に面白いからです。教科書が書き換わる類の話で、Lee らの2015年の論文は今でも読み返す価値があります。

ただ、話題になっている理由はそこではないでしょう。

Reynolds らの2021年の報告が示したのは「運動するとヒトの筋肉で MOTS-c が増える」であって、「MOTS-c を入れれば運動したことになる」ではありません。この二つは論理的にまったく別の主張です。運動で上がる分子は数十種類あり、そのうち一つを外から入れても運動全体の再現にはなりません。

僕の見立てでは、MOTS-c は「科学としては本物、製品としては未完成」です。ヒト介入試験が出るまで、この評価は動かないと思っています。

よくある質問

Q. MOTS-c とは何ですか。 A. ミトコンドリアDNAの12S rRNA遺伝子内にコードされた16アミノ酸のペプチドです。2015年に報告され、AMPK 活性化を介した代謝調節に関わると考えられています。

Q. 本当に運動の代わりになりますか。 A. ヒトでそれを示した対照試験はありません。「運動するとヒトで MOTS-c が増える」という観察報告と、「投与すれば運動と同じ効果が出る」という主張は別物です。

Q. 副作用はありますか。 A. ヒトでの安全性試験が事実上ないため、副作用の頻度も種類も分かっていません。「報告がない」は「安全」を意味しません。

Q. 日本で使うのは違法ですか。 A. 未承認医薬品であり、国内で医薬品として販売・広告することはできません。個人輸入した製品で健康被害が生じても、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

Q. SS-31 やエピタロンとの違いは。 A. いずれも「ミトコンドリア・長寿系」に分類されますが、SS-31(エラミプレチド)はカルジオリピンに結合する合成ペプチドで米国で希少疾患に承認済み、エピタロンは松果体由来のロシア発テトラペプチドです。由来も機序もエビデンスの厚みも異なります。

英語圏でよく検索されている質問

“mots c peptide benefits”(何が期待されているのか) ミトコンドリアDNA由来のペプチドで、細胞・動物実験では代謝への働きが報告されています。ただしヒトに投与した信頼できる介入試験はゼロです。「benefits」として語られている内容は、ほぼすべて動物までの話です。

“mots c peptide”(MOTS-cはペプチドなのか) はい。ミトコンドリアの12S rRNA領域にコードされる16アミノ酸のペプチドで、運動後にヒトの筋肉や血中で増えるという観察報告があります。

**摂取量(dosage)や入手(buy/for sale)に関する質問には、このサイトは答えません。**未承認の医薬品であり、用量と入手先を扱わないのが当サイトの編集方針だからです(編集方針)。

関連する成分

  • SS-31(エラミプレチド) — 同じミトコンドリア系だが、米国で希少疾患に承認された唯一の例
  • ヒューマニン — 同じミトコンドリア由来ペプチドの先輩格
  • エピタロン — 長寿系ペプチドの代表格。エビデンスの構造が対照的
  • BPC-157 — 同じく動物実験先行でヒトデータが空白のペプチド

出典

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本記事は研究・教育目的の情報提供です。特定の製品の使用を推奨・承認するものではなく、医学的助言ではありません。日本で未承認の医薬品は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。執筆:ペプチ堂管理人/最終更新:2026-08-22