LL-37LL-37 (Cathelicidin)
ヒトが唯一持つカテリシジン。抗菌の主役であり、乾癬と酒さの容疑者でもある

結論(3行)
LL-37 とは、ヒトが持つ唯一のカテリシジン系抗菌ペプチドで、前駆体タンパク質 hCAP18 が切断されて生じる37アミノ酸のペプチドである(N末端がロイシン2個で始まり37残基あることが名前の由来)。
好中球の顆粒や上皮に存在し、抗菌作用に加えて免疫細胞の呼び寄せ、血管新生、創傷治癒への関与が報告されている。
一方で、乾癬・酒さといった炎症性皮膚疾患では炎症を駆動する側の分子として報告されており、難治性の静脈性下腿潰瘍を対象とした第IIb相試験は主要評価項目を達成しなかった。
LL-37 とは
LL-37(カテリシジン、cathelicidin)は、1995年に Agerberth らが報告したヒト由来の抗菌ペプチドです。ヒトのカテリシジン遺伝子は CAMP ひとつだけで、そこから作られる前駆体 hCAP18 がプロテイナーゼ3などにより切断され、C末端側から成熟型の LL-37 が切り出されます。
好中球の二次顆粒、皮膚の角化細胞、気道や消化管の上皮、唾液、汗——体が外界と接する境界面に配置されています。両親媒性のαヘリックスを取り、細菌の陰性荷電した膜に結合して穴を開けるのが古典的な抗菌機序です。
ただし注目され続けている理由は、抗菌作用より「それ以外」にあります。FPR2(FPRL1)を介して好中球・単球・T細胞を呼び寄せる走化性因子として働き、血管新生を促し、上皮の遊走を助ける。感染防御と組織修復の両方に足をかけた分子で、「回復系」の棚に置かれるのはこのためです。
もう一つ有名なのがビタミンDとの関係です。Liu らは2006年の Science 論文で、結核菌成分による TLR2/1 刺激がマクロファージのビタミンD受容体と CYP27B1 を誘導し、活性型ビタミンDを介して CAMP 遺伝子の転写が上がることを示しました。「ビタミンDと感染症」が生物学的にもっともらしく語られる根拠の中核が、この経路です。
研究で分かっていること
| 段階 | 内容 | 主な報告 |
|---|---|---|
| 同定 | ヒト唯一のカテリシジンとして同定 | Agerberth ら PNAS 1995 |
| 細胞・ヒト | ビタミンD受容体を介した CAMP 遺伝子の転写誘導 | Liu ら Science 2006 |
| ヒト第I/II相 | 難治性静脈性下腿潰瘍34例。低用量群で治癒速度定数がプラセボより高いと報告 | Grönberg ら Wound Repair Regen 2014 |
| ヒト第IIb相 | 同適応148例。完全閉鎖率は 26.5%/24.7%/25.3%(LL-37 低用量/高用量/プラセボ)で有意差なし | Mahlapuu ら Wound Repair Regen 2021 |
| ヒト(疾患側) | 乾癬患者の多くで LL-37 特異的T細胞が検出され、疾患活動性と相関 | Lande ら Nat Commun 2014 |
| ヒト・動物 | 自己DNAと複合体を形成し形質細胞様樹状細胞を活性化。酒さ様反応の誘導 | Lande ら Nature 2007/Yamasaki ら Nat Med 2007 |
臨床試験の流れが分かりやすい教材になっています。34例の第I/II相では、低用量群の治癒速度定数がプラセボの約6倍という目を引く結果が出ました。ところが148例の第IIb相では、完全閉鎖率が三群でほぼ横並びに。事後解析で10cm²以上の潰瘍に限れば差が見えたという報告はありますが、事後解析は次の試験の仮説を作るためのものです。
分かっていないこと
- 全身投与(注射)した場合に何が起きるのか。公表されている臨床試験は局所(創傷)への投与です
- 「多いほど良い」のか。乾癬・酒さの研究が示すのはむしろ逆で、過剰が病態を作る側面です
- 長期・反復投与時の免疫学的影響。自己抗原としての性質を考えると単純ではありません
日本と米国の承認状況
| 日本 | 米国 | |
|---|---|---|
| 医薬品としての承認 | なし(未承認) | なし(未承認) |
| 調剤(compounding) | 制度が異なり該当しない | 2023年9月に「Cathelicidin LL-37」として 503A Category 2 へ分類。2026年4月15日に指名撤回で同区分から削除。2027年2月までに開かれる薬局調剤諮問委員会(PCAC)で審議予定 |
| 救済制度 | 健康被害が生じても医薬品副作用被害救済制度の対象外 | ― |
Category 2 からの削除は「安全性が確認された」ことを意味しません。指名者が指名を取り下げた結果、手続き上の区分から外れただけです。
既知のリスク・副作用
局所投与の臨床試験では忍容性は概ね良好と報告されています。問題は、この分子が生体内で担っている役割そのものにあります。
Lande らは、LL-37 が死細胞由来の自己DNAと複合体を作ることで、本来なら無視される自己DNAを形質細胞様樹状細胞に「見える」ようにし、I型インターフェロン産生と自己炎症のカスケードを起動することを示しました。酒さでは、カテリシジンの異常なプロセシング産物が炎症を誘導することがマウスで示されています。つまり LL-37 は、量と場所と切断のされ方によって守りにも攻めにもなる分子です。高濃度では細菌だけでなくヒト細胞の膜にも作用し、細胞毒性や溶血、マスト細胞の脱顆粒が報告されています。
日本では未承認であり、個人輸入した製品で健康被害が生じても、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
海外で話題になっている理由(ペプチ堂管理人の読み)
LL-37 の売り文句は、たいてい「あなたの体がもともと作っている抗菌ペプチド」です。内因性であることが安全性の保証のように語られる。僕はこの論法がペプチド界隈で最もタチが悪い部類だと思っています。インスリンも甲状腺ホルモンも内因性ですが、外から入れれば人は死にます。内因性かどうかと、外から入れて安全かどうかは別の問題です。
LL-37 の場合、その問題が実データとして存在しているのが厄介です。乾癬と酒さの研究が示すのは、LL-37 が「足りないと感染しやすい」だけでなく「多すぎると自分を攻撃する」分子だということ。自己DNAと組んで自然免疫のスイッチを入れるという Lande らの発見は、抗菌ペプチドの教科書的イメージを裏返しました。抗菌ペプチドをブーストするというアイデアは、乾癬の病態を人工的に作る操作と紙一重です。
臨床の側も甘くありません。局所投与という、全身曝露を最小化できる最も条件の良い設定で、148例の第IIb相が主要評価項目を外した。34例で見えた「6倍」が消えたわけです。僕の見立てでは、LL-37 は生物学として一級に面白く、創薬としては難易度が非常に高い。米国の PCAC 審議が控えていますが、規制手続きの動きと科学的エビデンスの蓄積を混同しないことです。
よくある質問
Q. LL-37 とは何ですか。 A. ヒト唯一のカテリシジン系抗菌ペプチドで、前駆体 hCAP18 から切り出される37アミノ酸のペプチドです。抗菌作用に加え、免疫細胞の遊走誘導や創傷治癒への関与が報告されています。
Q. ビタミンDを摂ると増えるのですか。 A. 活性型ビタミンDが CAMP 遺伝子の転写を誘導する経路は確立しています。ただし「サプリで補えば感染症が減る」という臨床的結論は、そこから自動的には出てきません。
Q. 傷の治りに効きますか。 A. 34例の初期試験では良好な結果が報告されましたが、148例の第IIb相では完全閉鎖率にプラセボとの差が出ませんでした。
Q. 副作用はありますか。 A. 局所投与試験では忍容性は良好とされます。ただし乾癬・酒さの病態への関与が報告されており、高濃度ではヒト細胞への毒性も知られています。日本では未承認医薬品であり、個人輸入品で健康被害が生じても救済制度の対象外です。
関連する成分
一次情報
- Agerberth B, Gunne H, Odeberg J, et al. PNAS. 1995;92(1):195-199.(FALL-39/LL-37 の同定)
- Liu PT, Stenger S, Li H, et al. Science. 2006;311:1770-1773.(ビタミンD経路によるカテリシジン誘導)
- Lande R, Gregorio J, Facchinetti V, et al. Nature. 2007;449:564-569.(自己DNAとの複合体と pDC 活性化)
- Yamasaki K, Di Nardo A, Bardan A, et al. Nature Medicine. 2007;13(8):975-980.(酒さ)
- Lande R, Botti E, Jandus C, et al. Nature Communications. 2014;5:5621.(乾癬のT細胞自己抗原)
- Grönberg A, Mahlapuu M, Ståhle M, et al. Wound Repair Regen. 2014;22(5):613-621.(第I/II相)
- Mahlapuu M, Sidorowicz A, Mikosinski J, et al. Wound Repair Regen. 2021;29(6):938-950.(第IIb相)
- FDA. Bulk Drug Substances Nominated for Use in Compounding Under Section 503A — Category 2 list(2023年9月追加、2026年4月15日削除)
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