LL-37

LL-37 (Cathelicidin)

別表記:LL37/カテリシジン/cathelicidin/hCAP18

体が作る、抗生物質

ヒトが唯一持つカテリシジン。抗菌の主役であり、乾癬と酒さの容疑者でもある

LL-37
どこまで確かめられたか
  1. 試験管・理論
  2. 動物実験
  3. ヒト試験
  4. 承認

ヒト第IIb相(局所投与)まで実施されたが、主要評価項目は未達

日本とアメリカで使えるか
JP未承認
US未承認

未承認。調剤用バルク原薬としてカテゴリー2に置かれていたが、2026年4月時点で指名が撤回された一覧に移動。2026年7月の諮問委員会の審議対象には入っていない

知っておくべきリスク

乾癬・酒さなど炎症性疾患の駆動因子としての報告がある。高濃度では細胞毒性

日本では未承認。健康被害が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

ヒトが持つ唯一のカテリシジン系抗菌ペプチド。細菌の膜に穴を開ける、体内製の武器です。
海外では「自分の体が作っている抗菌成分」として語られ、ビタミンDの話題ともセットになります。
日米ともに未承認。しかも乾癬や酒さでは"炎症を起こす側"としても報告されています。

結局、なにをする成分?

LL-37 は、体が自分で作っている抗菌ペプチドです。1995年に Agerberth らが報告しました。

作られ方はこうです。ヒトのカテリシジン遺伝子は CAMP ひとつだけ。そこから前駆体タンパク質 hCAP18 ができ、プロテイナーゼ3などがハサミを入れて、C末端側から成熟型の LL-37 が切り出されます。37個のアミノ酸でできていて、先頭がロイシン(L)2個で37残基だから LL-37。名前がそのまま説明になっています。

置き場所も分かりやすい。好中球の二次顆粒、皮膚の角化細胞、気道や消化管の上皮、唾液、汗。体が外界と接する境界線に配置されています。国境の守備隊みたいな分子です。

倒し方は物理的です。両親媒性のαヘリックスという形をとり、マイナスに帯電した細菌の膜にくっついて穴を開ける。鍵で開けるのではなく、壁をぶち抜くタイプ。

ただし LL-37 が注目され続ける理由は、抗菌そのものより「それ以外」にあります。FPR2(FPRL1)という受容体(細胞の鍵穴)を介して好中球・単球・T細胞を呼び寄せ、血管新生を促し、上皮の移動を助ける。守りと修理の両方に足をかけているので、「回復系」の棚に並べられます。

なぜ海外でバズってるのか

売り文句はほぼ一種類です。「あなたの体がもともと作っている抗菌ペプチド」。内因性であることが、そのまま安心の記号として使われています。

もうひとつの燃料がビタミンDです。Liu らは2006年の Science で、結核菌成分による TLR2/1 刺激がマクロファージのビタミンD受容体と CYP27B1 を誘導し、活性型ビタミンDを介して CAMP 遺伝子の転写が上がることを示しました。「ビタミンDと感染症」がもっともらしく語られる根拠の中核が、この経路です。

で、効くの?

研究の段階LL-37
ヒト第III相×
ヒト第II相△(第IIb相を実施。主要評価項目は未達)
動物実験○
試験管(細胞)○

代表的な流れを2つだけ。34例の第I/II相(Grönberg ら Wound Repair Regen 2014)では、難治性の静脈性下腿潰瘍で低用量群の治癒速度定数がプラセボの約6倍という目を引く結果が出ました。

ところが148例の第IIb相(Mahlapuu ら Wound Repair Regen 2021)では、完全閉鎖率が 26.5%/24.7%/25.3%(低用量/高用量/プラセボ)とほぼ横並び。事後解析で10cm²以上の潰瘍なら差が見えたという報告はありますが、事後解析は次の試験の仮説を作るためのものです。

疾患側の報告も外せません。乾癬患者の多くで LL-37 特異的T細胞が検出され疾患活動性と相関する(Lande ら Nat Commun 2014)、自己DNAと複合体を作って形質細胞様樹状細胞を活性化する(Lande ら Nature 2007)、酒さ様反応の誘導(Yamasaki ら Nat Med 2007)。

なお公表されている臨床試験は局所(創傷)への投与です。全身に入れたときに何が起きるかは分かっていません。

ヤバい点は?

  • 多いほど良い、ではない。 乾癬・酒さの研究が示すのは逆で、過剰が病態を作る側面です。
  • 自己免疫のスイッチを押す。 死細胞由来の自己DNAと複合体を作り、本来なら無視される自己DNAを樹状細胞に「見える」ようにして、I型インターフェロン産生と自己炎症のカスケードを起動します。
  • 高濃度では自分の細胞も壊す。 細胞毒性、溶血、マスト細胞の脱顆粒が報告されています。
  • 長期・反復投与の免疫学的影響は未知。 自己抗原としての性質を考えると単純ではありません。
  • 未承認。 日本で個人輸入品により健康被害が生じても、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

局所投与の臨床試験での忍容性は概ね良好と報告されています。問題は副作用の頻度ではなく、この分子が生体内で担っている役割そのものにあります。

日本と米国の今

日本米国
医薬品としての承認なし(未承認)なし(未承認)
調剤(compounding)制度が異なり該当しない「Cathelicidin LL-37」として調剤用バルク原薬のカテゴリー2に置かれていたが、2026年4月時点の FDA ページでは「指名されたが撤回された」一覧に移動している。2026年7月23〜24日の PCAC の審議対象には入っていない
救済制度健康被害が生じても対象外―

Category 2 からの削除は「安全性が確認された」という意味ではありません。指名者が指名を取り下げ、手続き上の区分から外れただけです。

ペプチ堂管理人の本音

僕は「内因性だから安全」という論法が、ペプチド界隈で一番タチが悪いと思っています。インスリンも甲状腺ホルモンも内因性ですが、外から入れれば人は死にます。体が作っているかどうかと、外から足して安全かどうかは、別の質問です。

LL-37 が厄介なのは、その反例が実データとして存在することです。乾癬と酒さの研究が示すのは、「足りないと感染しやすい」だけでなく「多すぎると自分を攻撃する」という顔。抗菌ペプチドをブーストするというアイデアは、乾癬の病態を人工的に作る操作と紙一重です。

臨床の側も甘くありません。局所投与という、全身曝露を最小化できる最も条件の良い設定で、148例が主要評価項目を外した。34例で見えた「6倍」が消えたわけです。僕の見立てでは、LL-37 は生物学として一級に面白く、創薬としては難易度が非常に高い。米国の PCAC 審議は控えていますが、規制手続きの動きと科学的エビデンスの蓄積を混同しないことです。使用は勧めません。

よくある質問

Q. LL-37 とは何ですか。 A. ヒト唯一のカテリシジン系抗菌ペプチドで、前駆体 hCAP18 から切り出される37アミノ酸のペプチドです。抗菌作用に加え、免疫細胞の遊走誘導や創傷治癒への関与が報告されています。

Q. ビタミンDを摂ると増えるのですか。 A. 活性型ビタミンDが CAMP 遺伝子の転写を誘導する経路は確立しています。ただし「サプリで補えば感染症が減る」という臨床的結論は、そこから自動的には出てきません。

Q. 傷の治りに効きますか。 A. 34例の初期試験では良好な結果が報告されましたが、148例の第IIb相では完全閉鎖率にプラセボとの差が出ませんでした。

Q. 副作用はありますか。 A. 局所投与試験では忍容性は良好とされます。ただし乾癬・酒さの病態への関与が報告されており、高濃度ではヒト細胞への毒性も知られています。

Q. 日本では合法ですか。 A. 未承認医薬品です。個人輸入品で健康被害が生じても救済制度の対象外です。

英語圏でよく検索されている質問

“ll 37 benefits”(何が期待されているのか) ヒトが生まれつき持つ抗菌ペプチドで、感染防御や創傷治癒の研究が長くあります。ヒト試験は難治性下腿潰瘍への局所投与(第I/II相・第IIb相)まで進みましたが、主要評価項目は未達でした。

“ll 37 peptide cancer”(がんとの関係) 研究途上です。がんの種類によって促進側・抑制側の両方向の報告があり、単純な結論は出ていません。「がんに効く」とも「がんを起こす」とも言える段階にありません。

“ll 37 peptide side effects”(副作用) 全身投与のヒト安全性データはありません。乾癬ではLL-37自体が自己免疫の標的になるという報告もあり、免疫への作用は単純ではありません。

**摂取量(dosage)や入手(buy/for sale)に関する質問には、このサイトは答えません。**未承認の医薬品であり、用量と入手先を扱わないのが当サイトの編集方針だからです(編集方針)。

関連する成分

  • KPV — 同じく免疫・炎症に働く小型ペプチド。こちらは抗炎症側
  • BPC-157 — 「回復系」で最も語られる成分。エビデンスの構造が対照的
  • GHK-Cu — 創傷治癒の文脈でよく並べて語られる

出典

  • Agerberth B, Gunne H, Odeberg J, et al. FALL-39, a putative human peptide antibiotic, is cysteine-free and expressed in bone marrow and testis. Proc Natl Acad Sci U S A. 1995;92(1):195-9.(PMID: 7529412/LL-37 の同定)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7529412/
  • Liu PT, Stenger S, Li H, et al. Toll-like receptor triggering of a vitamin D-mediated human antimicrobial response. Science. 2006;311(5768):1770-3.(PMID: 16497887)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16497887/
  • Lande R, Gregorio J, Facchinetti V, et al. Plasmacytoid dendritic cells sense self-DNA coupled with antimicrobial peptide. Nature. 2007;449(7162):564-9.(PMID: 17873860)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17873860/
  • Yamasaki K, Di Nardo A, Bardan A, et al. Increased serine protease activity and cathelicidin promotes skin inflammation in rosacea. Nat Med. 2007;13(8):975-80.(PMID: 17676051)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17676051/
  • Lande R, Botti E, Jandus C, et al. The antimicrobial peptide LL37 is a T-cell autoantigen in psoriasis. Nat Commun. 2014;5:5621.(PMID: 25470744)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25470744/
  • Grönberg A, Mahlapuu M, Ståhle M, et al. Treatment with LL-37 is safe and effective in enhancing healing of hard-to-heal venous leg ulcers: a randomized, placebo-controlled clinical trial. Wound Repair Regen. 2014;22(5):613-21.(PMID: 25041740/第I/II相)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25041740/
  • Mahlapuu M, Sidorowicz A, Mikosinski J, et al. Evaluation of LL-37 in healing of hard-to-heal venous leg ulcers: a multicentric prospective randomized placebo-controlled clinical trial. Wound Repair Regen. 2021;29(6):938-950.(PMID: 34687253/第IIb相)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34687253/
  • FDA. Certain Bulk Drug Substances for Use in Compounding That May Present Significant Safety Risks。同ページの「Bulk drug substances nominated but withdrawn(指名されたが撤回された)」一覧に Cathelicidin LL-37 が掲載されている。これは「暫定方針でカテゴリー2に置かれていたが、指名者が指名を撤回した」物質の一覧で、安全性懸念の記載は残る(ページ更新日 2026年4月22日). https://www.fda.gov/drugs/human-drug-compounding/certain-bulk-drug-substances-use-compounding-may-present-significant-safety-risks
  • LL-37 は2026年7月23〜24日の PCAC の審議対象には入っていない(同会合の議題は BPC-157/KPV/TB-500/MOTs-C/Emideltide/Semax/Epitalon)
  • 医薬品としての承認:日本・米国ともになし
  • 海外ペプチド情報の見分け方

同じ分類の成分

本記事は研究・教育目的の情報提供です。特定の製品の使用を推奨・承認するものではなく、医学的助言ではありません。日本で未承認の医薬品は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。執筆:ペプチ堂管理人/最終更新:2026-08-22