VIP(血管作動性腸管ペプチド)

VIP (Vasoactive Intestinal Peptide)

別表記:VIP/血管作動性腸管ペプチド/アビプタジル/aviptadil

炎症のオフスイッチ、と呼ばれる理由

本物のホルモン。作用が強すぎて、薬にするのが難しかった

VIP(血管作動性腸管ペプチド)
どこまで確かめられたか
  1. 試験管・理論
  2. 動物実験
  3. ヒト試験
  4. 承認

内因性ホルモンとしては確立。治療薬としては大規模第III相で主要評価項目未達

日本とアメリカで使えるか
JP未承認
US未承認

全身投与のVIP製剤は未承認。COVID-19 での緊急使用許可は却下(2021年)

知っておくべきリスク

強力な血管拡張作用による低血圧・頻脈・顔面紅潮・下痢

日本では未承認。健康被害が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

1970年にブタ小腸から見つかった28アミノ酸の本物のホルモン。合成品の名前はアビプタジル。
海外では「重症コロナの切り札」として2020年に大騒ぎになり、大規模試験で結果が出ませんでした。
日本では未承認。承認されているのは欧州の一部でED用の配合注射剤だけです。

結局、なにをする成分?

VIP は、ペプチドホルモン研究の古典に属する分子です。1970年、Said と Mutt がブタの小腸壁から「血管を広げる活性」を目印に精製して取り出しました。28個のアミノ酸でできています。

発見当初は消化管ホルモン扱いでした。ところが調べていくと、腸管神経系の主要な神経伝達物質であり、脳(視交叉上核)にも、肺にも、免疫細胞にも働く分子だと分かってきます。守備範囲が異様に広い。

受容体(細胞の鍵穴)は VPAC1 と VPAC2 の2種類。どちらもGタンパク質共役型で、cAMP を上げる方向に働きます。

やることを並べます。血管平滑筋をゆるめて血圧を下げる。気管支を広げる。腸の分泌を促す。肺サーファクタントの産生に関わる。免疫応答を調節する。体内時計の同調に関わる。

イメージは建物の主電源ブレーカーです。あちこちに一気に効く。だから強力で、だから扱いが難しい。

重要なのは、VIP が過剰になると何が起きるかが、すでに人間で分かっていることです。VIP を作る内分泌腫瘍(VIPoma)では、大量の水様性下痢・低カリウム血症・無胃酸症(WDHA 症候群)が起きます。薬理量の VIP が全身に回るとどうなるかを示す、天然の実験です。

なぜ海外でバズってるのか

流れは2つあります。ひとつは COVID-19。2020〜2021年、アビプタジル(RLF-100/ZYESAMI)は「重症コロナの切り札」として大量の報道と株価の物語を生みました。理屈は悪くありません。VIP は肺のII型肺胞上皮細胞に多い受容体に結合し、サーファクタント産生を保ち、炎症を抑える。重症 ARDS の病態にきれいに当てはまる仮説でした。

もうひとつは、英語圏の一部で語られる「慢性炎症反応症候群(CIRS)」の文脈です。水害建物由来のカビ毒曝露で VIP が低下するとされ、経鼻 VIP が治療として提唱されてきました。

で、効くの?

研究の段階VIP/アビプタジル
ヒト第III相○(実施済み。ただし主要評価項目は未達)
ヒト第II相○
動物実験○
試験管(細胞)○

「試験まで到達したのに勝てなかった」タイプです。2023年の ACTIV-3b/TESICO 試験(Lancet Respir Med)では、COVID-19 の低酸素性呼吸不全に対し、静注アビプタジルは90日までの臨床転帰でプラセボに勝てませんでした。FDA は2021年11月に ZYESAMI の緊急使用許可を却下し、2022年には画期的治療薬指定も認めていません。

肯定的な報告もあります。Prasse ら(Am J Respir Crit Care Med 2010)は、サルコイドーシス20例に吸入 VIP を4週間投与したオープンラベル試験で、忍容性良好、気管支肺胞洗浄液細胞の TNF-α 産生が有意に低下したと報告しました。ただし症状や肺機能といった、患者にとって意味のある指標での検証は進んでいません。

一方で承認されている使い方もあります。アビプタジル+フェントラミンの海綿体注射(Invicorp)が、英国など欧州の一部で勃起不全の治療薬として承認されています。

目を引くのは、承認されているのが「局所に打つ配合剤」だけという点です。VIP は生理活性が強すぎて、全身に入れると血圧が下がりすぎる。効かせたい場所だけに届けるか、吸入で肺に限定するかという工夫が要る。薬にしにくい理由が、そのまま製剤の形に出ています。

ヤバい点は?

  • 低血圧・頻脈・顔面紅潮・頭痛。 強力な血管拡張作用の裏返しです。
  • 下痢。 消化管の分泌が亢進します。VIPoma の WDHA 症候群は、この延長線上の病態です。
  • 監視下でないと使えない。 静注では血圧低下の管理が必要で、COVID-19 の試験でも入院・監視下で投与されました。「自宅で自己注射する」類の分子ではない、というのが最も実務的な要点です。
  • 海綿体注射では局所の疼痛・紅潮、まれに持続勃起症。
  • CIRS への経鼻 VIP を支持する質の高い試験はありません。
  • 未承認。 日本で個人輸入品により健康被害が生じても、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

日本と米国の今

日本米国
医薬品としての承認なし(未承認)全身投与のVIP/アビプタジル製剤は未承認
COVID-19―2021年11月に緊急使用許可(EUA)却下。2022年に画期的治療薬指定も却下
欧州―アビプタジル+フェントラミン配合の海綿体注射(Invicorp)が英国など一部で承認
救済制度健康被害が生じても対象外―

アビプタジルは希少疾患を対象としたオーファンドラッグ指定を複数受けていますが、指定は「開発を後押しする制度上の地位」であって承認ではありません。混同されやすい点です。

ペプチ堂管理人の本音

COVID-19 の一件は、この分野の教科書だと思っています。仮説は美しかった。肺の受容体、サーファクタント、炎症抑制——重症 ARDS の絵にぴたりと合う。それでも TESICO では勝てなかった。仮説の美しさと臨床効果は別、という事例がまた一つ増えたわけです。

CIRS の文脈は、VIP の科学とは切り離して見るべきだと考えています。根拠として引かれる報告は査読基準の緩い媒体に載ったものが中心で、対照試験の水準に達していません。同じ「VIP」という名前でも、話している中身が違います。

僕の評価はこうです。VIP は当サイトで扱う成分の中でもっとも「本物のホルモン」に近い。機序は明確、受容体も同定済み、過剰時に何が起きるかまで人間で分かっている。にもかかわらず、あるいはそれゆえに、薬にするのが極めて難しい。半減期が短く、血圧を下げすぎ、標的臓器だけに届けるのが困難だからです。承認されているのが局所注射の配合剤だけという事実が、すべてを語っています。使用は勧めません。

よくある質問

Q. VIP とは何ですか。 A. 1970年にブタ小腸から単離された28アミノ酸のペプチドホルモンです。血管拡張、気管支拡張、消化管の分泌調節、免疫調節などに関わり、合成品はアビプタジルと呼ばれます。

Q. COVID-19 に効きますか。 A. 2023年に Lancet Respir Med に報告された ACTIV-3b/TESICO 試験では、静注アビプタジルはプラセボに対して臨床転帰を改善しませんでした。FDA も緊急使用許可を却下しています。

Q. 承認された薬はありますか。 A. アビプタジルとフェントラミンの配合による陰茎海綿体注射剤が、英国など欧州の一部で勃起不全に承認されています。全身投与の製剤は米国でも日本でも未承認です。

Q. 副作用はありますか。 A. 低血圧、頻脈、顔面紅潮、頭痛、下痢など、強い血管拡張作用と消化管作用に由来するものが知られています。

Q. カビ毒による体調不良(CIRS)に使われると聞きました。 A. そうした用途が海外で提唱されていますが、質の高い対照試験による裏づけはありません。承認された適応でもありません。

関連する成分

  • KPV — 炎症を抑える方向に働くペプチド。こちらはヒトデータが空白
  • LL-37 — 免疫系ペプチド。ヒト試験で主要評価項目を外した点が共通する
  • チモシンα1 — 承認薬でありながら大規模試験で結果が出なかった、似た構造の事例
  • PT-141 — 性機能の文脈で語られるが、機序も承認状況も異なる

出典

  • Said SI, Mutt V. Polypeptide with broad biological activity: isolation from small intestine. Science. 1970;169(3951):1217-8.(PMID: 5450698/VIP の単離)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5450698/
  • Prasse A, Zissel G, Lützen N, et al. Inhaled vasoactive intestinal peptide exerts immunoregulatory effects in sarcoidosis. Am J Respir Crit Care Med. 2010;182(4):540-8.(PMID: 20442436)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20442436/
  • ACTIV-3b/TESICO Study Group. Intravenous aviptadil and remdesivir for treatment of COVID-19-associated hypoxaemic respiratory failure in the USA (TESICO): a randomised, placebo-controlled trial. Lancet Respir Med. 2023;11(9):791-803.(PMID: 37348524)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37348524/
  • FDA. Drugs@FDA にアビプタジル(aviptadil)を有効成分とする承認医薬品の登録は確認できない。COVID-19 に対する緊急使用許可(EUA)も付与されていない
  • 日本:未承認
  • 治験中のペプチド2026

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本記事は研究・教育目的の情報提供です。特定の製品の使用を推奨・承認するものではなく、医学的助言ではありません。日本で未承認の医薬品は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。執筆:ペプチ堂管理人/最終更新:2026-08-22