同じやり方で計算して、二社とも「自分の勝ち」と言った
イーライリリーとノボノルディスクが、2026年10月のEASD学会に合わせて発表した「間接治療比較」で、互いに逆方向の勝利を主張している。頭対頭の試験ではなく、異なる試験データをモデルで橋渡しした手法だという注記は、どちらの発表にも小さく添えられている。
出典:Eli Lilly Investor Relations / Pharmaceutical Technology
イーライリリーは、経口薬フォーンダヨ(オルフォルグリプロン)17.2mgが経口ウゴービ(セマグルチド)25mgより体重減少で優れているという「間接比較」データを発表した。
ところが別の学会発表では、逆に経口ウゴービの方が優れているという間接比較の結果が示されている。
2026年10月のEASD(欧州糖尿病学会)ミラノ大会を前に、同じ種類の手法を使った二社が、正反対の「勝利」を主張している。
痩せ薬をめぐる海外の企業発表は、ときどき同じ土俵で正反対の結論が並ぶことがあります。2026年10月、まさにその構図が起きました。
リリー側の発表:自社が優位
イーライリリーは、経口の低分子GLP-1薬フォーンダヨ(オルフォルグリプロン)17.2mgと、経口セマグルチド(ウゴービの錠剤版)25mgを比べた「間接治療比較」の結果を発表しました。2型糖尿病患者において、体重減少で1.5〜2.4ポイント、HbA1c(血糖の指標)で0.3ポイント、フォーンダヨの方が優れているという内容です。
別の発表:ノボ側が優位
一方、欧州肥満学会(ECO 2026)での別の発表では、同じように間接比較の手法を使いながら、逆に経口ウゴービの方が体重減少で優れているという結果が示されています。
「間接比較」とは何か
ここで重要なのは、いずれも頭対頭(head-to-head)の無作為化試験ではないという点です。フォーンダヨとウゴービの錠剤を同じ試験の中で直接比較したデータは、今回のどちらの発表にも含まれていません。
代わりに使われているのは、フォーンダヨ単独の試験データと、ウゴービ錠剤単独の試験データを、それぞれ統計モデルで橋渡しして間接的に比べる「間接治療比較」という手法です。たとえるなら、AさんとBさんが直接競争したのではなく、それぞれ別の日に走った記録を、コースの違いを補正する計算式で比べているようなものです。補正の仕方(モデルの設計)次第で、結論が変わりうる手法だという注記は、リリー・ノボ双方の発表に小さく添えられています。
参考までに、それぞれの薬単独の第3相試験の絶対的な数字を並べると、経口ウゴービ25mgは64週で13.6%減量、フォーンダヨ17.2mgは72週で11.1%減量という報告があります。ただし試験デザインも対象集団も異なるため、この数字同士も単純比較はできません。
なぜ、こんなことになるのか
同じ手法を使っているのに、結論が正反対になる理由は、モデルに何のデータを入れ、どう補正するかという設計の違いにあります。どちらの会社も自社に有利なモデル設計を選ぶインセンティブがあり、双方が「自分が優位」という間接比較を発表するのは、ある意味で自然な展開です。
学会という同じ舞台(EASD・ECO)で、同じ種類の手法を使った発表がほぼ同時期に正反対の結論を出す——これは、間接比較というものの読み方そのものについて、慎重さが必要だということを示す実例になっています。
ヤバい点は?
- 本稿が扱っているのはいずれも企業発表(プレスリリース)段階の情報で、査読済み論文としての公表を本稿では確認できていません
- 間接治療比較は、モデルの設計・補正方法によって結論が変わりうる手法であり、頭対頭試験の結果ではありません
- どちらの薬も日本では、フォーンダヨ(オルフォルグリプロン)は未承認、経口セマグルチド(リベルサス)は承認済みですが適応・用量が異なります
ペプチ堂管理人の本音
これ、正直「あるある」だと思います。同じ道具(間接比較)を両方の会社が持っていて、どちらも自社に有利な形で使う。統計的に嘘をついているわけではなく、モデルの設計という、外からは見えにくい部分で結論が変わる——ここが怖いところです。
「〇〇社の発表によれば優位」という見出しだけを見て「じゃあこっちが効く」と判断するのは早計だと思っています。頭対頭試験の結果が出るまでは、どちらの数字も「その会社が選んだ比較のしかた」として距離を置いて読むのが、僕のおすすめです。
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出典
- Eli Lilly Investor Relations「Lilly’s Foundayo (orforglipron) 17.2 mg showed greater weight loss…」(2026年、EASD 2026発表)
- Pharmaceutical Technology(ECO 2026発表を報じる記事、経口セマグルチド優位の間接比較を紹介)
- Drugs.com / BioPharma International(両剤単独の第3相試験データの紹介記事)