何者? 成長ホルモンを自分の体に出させる、別々の道から押す2つのペプチド。
海外では? 「GH注射より自然」という理屈で、セット売りが定番化。
日本では? どちらも未承認。米国でも未承認のままです。
結局、なにをする成分?
成長ホルモン(GH)の分泌には、アクセルが2本あります。
1本目が GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)。下垂体に「出せ」と直接指示します。
2本目がグレリン系。GHS-R1a という別の受容体(細胞の鍵穴)を通して分泌を後押しし、同時にソマトスタチンというブレーキをゆるめます。
イパモレリンは2本目、グレリン側を狙った分子です。1998年に Raun らが報告した5アミノ酸のペプチドで、論文タイトルがそのまま「最初の選択的成長ホルモン分泌促進薬」でした。それ以前の GHRP-6 や GHRP-2 は ACTH・コルチゾール・プロラクチンまで一緒に動かしてしまう。イパモレリンは GH をほぼ単独で上げた。だから「選択的」です。
CJC-1295は1本目、GHRH 側です。GHRH の活性部分 GRF(1-29) を分解されにくく改造し、さらに DAC(Drug Affinity Complex)という部品をつけて血中アルブミンに結合させ、作用時間を大きく伸ばしました。
車でたとえるなら、片方はアクセルを踏む足、もう片方はブレーキをゆるめる手。押す場所が違うから、海外ではこの2つがセットで語られます。
ここで大事な混乱をひとつ。海外で流通する「CJC-1295 DAC なし(no-DAC)」は DAC を持たない modified GRF(1-29) のことで、作用時間が桁違いに短い別物です。同じ名前で二つの分子が語られています。
なぜ海外でバズってるのか
合成 GH そのものは規制が厳しく、価格も高い。しかも外から入れれば自前の分泌は止まります。
そこに「自分の下垂体に出させる」というストーリーが刺さりました。しかも GHRH 側とグレリン側という、生理的に本当に別の2系統を押す設計になっている。理屈が綺麗すぎるほど綺麗なのです。
英語圏のフィットネス界隈でこの2つがセットで語られるのは、この筋の通りやすさが理由です。
で、効くの?
| 研究の段階 | 到達 | 中身 |
|---|---|---|
| ヒト第III相 | × | 有効性を確かめる試験は完了していません |
| ヒト第II相 | △ | イパモレリンが術後イレウスを対象に臨床開発されましたが、承認には至らず開発は継続されていません |
| ヒト第I相 | ○ | CJC-1295 単回投与で GH が2〜10倍、IGF-I が1.5〜3倍に上昇し、日単位で持続(Teichman ら 2006) |
| 動物・試験管 | ○ | イパモレリンは GH を選択的に分泌させ、ACTH・コルチゾールは GHRH 刺激時と有意差のない範囲だったと報告(Raun ら 1998) |
「GH と IGF-I が上がる」ことは、ヒトで示されています。
示されていないのは、その上昇が何の役に立つかです。筋量・体組成・運動能力・健康寿命といった実利的な指標を主要評価項目にした試験の結果は、公表されていません。2剤の併用を検証した査読付きランダム化比較試験も、公表されていません。
内因性の分泌リズムへの影響も未評価です。GH は本来パルス状に出るホルモンです。
整形外科・スポーツ医学分野の2026年の系統的レビュー(Mayfield CK, et al. Am J Sports Med. 2026;54(1):223-229、PMID 41476424、本稿でNCBI E-utilitiesにより直接確認)もこの2剤の併用を取り上げ、「グルココルチコイド誘発性の筋量減少マウスモデルで最大強縮張力が有意に改善したが、この結果は動物実験にとどまる(but these findings are limited to animal studies)」と評価しています。ヒトでの有効性を示した査読データは、やはり見つかりません。
ヤバい点は?
- 本人公言の自己実験例があります。 長寿実験で知られる起業家ブライアン・ジョンソン氏は2026年5月8日、自身のSubstackでCJC-1295(DAC付き、週2回投与、1回目1.2mg・2回目1.8mg)の自己投与結果を公開しました。成長ホルモンは約8倍に増加した一方、空腹時血糖値+20%・ストレスホルモン+12%・レム睡眠−23%・膵臓の負荷+53%・インスリン抵抗性+50%という悪化が見られ、投与開始48時間後に「ほぼ昏睡状態」になり、目標用量に到達する前に2回で投与を中止したと明かしています。詳しくは有名人の発言まとめで。
- 第I相の範囲では、CJC-1295 で注射部位反応や一過性のほてりが報告されています。イパモレリンは選択性が高く、コルチゾール・プロラクチンへの影響は小さいとされます。
- GH/IGF-I を上げ続けること自体が理論上のリスクです。成長ホルモン過剰の臨床像として、耐糖能の悪化、体液貯留による浮腫、関節痛、手根管症候群が古くから知られています。
- IGF-I は細胞増殖のシグナルです。既存の腫瘍を持つ人での安全性は評価されていません。
- 中身が保証されません。 特に CJC-1295 は DAC の有無で別物です。純度・不純物・エンドトキシンを第三者が管理していません。
- 競技者は一発アウト。 世界アンチ・ドーピング機構の禁止表で「成長ホルモン放出因子」として、競技内外を問わず禁止されています。
日本と米国の今
| 日本 | 米国 | |
|---|---|---|
| イパモレリン | 未承認 | 未承認。2023年に 503A 調剤用バルク原薬 Category 2(重大な安全性リスクの懸念)へ分類 |
| CJC-1295 | 未承認 | 未承認。2024年9月20日、推薦者が指名を取り下げたため Category 2 の一覧から削除。安全性が認められたという意味ではなく、調剤に使えない状態は変わりません |
| 救済制度 | 未承認のため医薬品副作用被害救済制度の対象外 | ― |
2026年9月、業界系ブログの誤記述を確認しました。 peptidekey.comがHuberman Labのエピソードを紹介する記事内で「2026年3月にCJC-1295・イパモレリンが再承認された」と書いていましたが、FDA公式ページ(2026年4月22日時点版)を直接確認する限り、イパモレリンは今も現役のCategory 2表に残ったままです。詳しくは海外ペプチド情報の読み方にまとめました。
なお、この経路を狙った承認薬は実在します。日本ではグレリン受容体に作用するアナモレリン(エドルミズ)が2021年にがん悪液質を対象に承認されました。米国ではマシモレリン(成長ホルモン分泌不全症の診断薬)やテサモレリン(HIV 関連リポジストロフィー)が承認されています。
つまり経路の問題ではありません。イパモレリンと CJC-1295 は、承認に必要な試験が完了していないだけです。
ペプチ堂管理人の本音
僕が疑っているのは、この2剤の「理屈の綺麗さ」そのものです。
生理学的に筋が通っていることと、臨床的に意味のある結果が出ることの間には、大きな距離があります。GH 軸の薬は過去30年、「IGF-I は上がるのにアウトカムが動かない」を何度も繰り返してきた領域です。
イパモレリンが術後イレウスの開発から先に進まず、CJC-1295 が20年前の第I相で止まったまま。これを企業の都合と読むより、有効性の壁を疑うほうが自然だと僕は思っています。
もうひとつ気にしているのが、「CJC-1295」という名前が二つの別分子を指してしまっている混乱です。文献を引用しながら、実際は別物の話をしている記事が日本語圏にも英語圏にも溢れている。ここを整理せずに効果を論じても意味がありません。使用は勧めませんし、勧める根拠もありません。
よくある質問
Q. イパモレリンと CJC-1295 の違いは。 A. イパモレリンはグレリン受容体(GHS-R1a)を刺激する分泌促進薬、CJC-1295 は GHRH 側の受容体に作用する長時間作用型類似体です。作用点が別で、併用が語られるのはこのためです。
Q. 成長ホルモン注射と同じですか。 A. 違います。GH 製剤はホルモンそのものを外から入れますが、この2剤は下垂体に分泌を促します。内因性のフィードバックが残る点が異なりますが、それが臨床的に優れることを示した比較試験はありません。
Q. 筋肉は増えますか。 A. 体組成や筋力を主要評価項目にした試験の結果は公表されていません。GH と IGF-I の血中濃度が上がることは示されていますが、それは別の話です。
Q. 競技者が使うと問題になりますか。 A. 世界アンチ・ドーピング機構の禁止表で「成長ホルモン放出因子」として、競技内外を問わず禁止されています。
英語圏でよく検索されている質問
“cjc 1295 dac” / “cjc 1295 no dac”(DACあり・なしの違い) DAC(薬物親和性複合体)は、体内に長くとどまらせるための設計です。DACありは作用が持続し、なしは短時間で切れる——という設計上の違いで、どちらもヒトでの有効性・安全性が確立しているわけではありません。
“cjc 1295 ipamorelin”(イパモレリンとの併用) 海外では2つを組み合わせて語るのが定番になっていますが、この組み合わせの安全性・有効性を調べたヒト試験は存在しません。「定番」と「検証済み」は別物です。
“cjc 1295 ipamorelin side effects”(副作用) 承認審査を通っていないため、体系的な安全性データそのものがありません。「副作用の報告が少ない」は「安全」ではなく「調べられていない」です。
“cjc 1295 vs tesamorelin”(テサモレリンとの違い) 同じGHRH(成長ホルモン放出ホルモン)の類似物ですが、テサモレリンは米国でHIV関連の脂肪蓄積に承認された医薬品、CJC-1295は未承認のままという決定的な違いがあります。
**摂取量(dosage)や入手(buy/for sale)に関する質問には、このサイトは答えません。**未承認の医薬品であり、用量と入手先を扱わないのが当サイトの編集方針だからです(編集方針)。
関連する成分
- キスペプチン — 同じホルモン系。視床下部-下垂体軸に作用する
- セルモレリン(Geref) — 同じ GHRH 側。一度は承認された例
- BPC-157 — 回復目的で併用が語られることが多い
- レタトルチド — 承認プロセスを実際に走っているペプチドとの比較用
出典
- Raun K, Hansen BS, Johansen NL, et al. Ipamorelin, the first selective growth hormone secretagogue. Eur J Endocrinol. 1998;139(5):552-61.(PMID: 9849822)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9849822/
- Teichman SL, Neale A, Lawrence B, et al. Prolonged stimulation of growth hormone (GH) and insulin-like growth factor I secretion by CJC-1295, a long-acting analog of GH-releasing hormone, in healthy adults. J Clin Endocrinol Metab. 2006;91(3):799-805.(PMID: 16352683)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16352683/
- Mayfield CK, Bolia IK, Feingold CL, et al. Injectable Peptide Therapy: A Primer for Orthopaedic and Sports Medicine Physicians. Am J Sports Med. 2026;54(1):223-229.(PMID: 41476424、本稿でNCBI E-utilitiesにより直接確認)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41476424/
- FDA. Certain Bulk Drug Substances for Use in Compounding That May Present Significant Safety Risks。イパモレリン酢酸塩は 503B のカテゴリー2に2023年9月29日付で追加(同ページの日付つき一覧表)。イパモレリン酢酸塩と CJC-1295 は、あわせて「指名されたが撤回された」一覧にも掲載されている(ページ更新日 2026年4月22日). https://www.fda.gov/drugs/human-drug-compounding/certain-bulk-drug-substances-use-compounding-may-present-significant-safety-risks
- FDA. Pharmacy Compounding Advisory Committee 2024年12月4日会合 議事録。CJC-1295 関連物質(遊離塩基・酢酸塩・DAC 各形態)について「503A リストに収載すべきか」を投票し、いずれも否決された(遊離塩基 賛成0・反対13、酢酸塩 賛成1・反対12、DAC 各形態 賛成0・反対13). https://www.fda.gov/media/185642/download
- WADA. World Anti-Doping Code International Standard — Prohibited List(S2:ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物). https://www.wada-ama.org/en/prohibited-list
- 医薬品としての承認:日本・米国ともになし(いずれも承認医薬品ではない)
- WADA禁止ペプチド一覧



