No.020ホルモン系

イパモレリン/CJC-1295Ipamorelin / CJC-1295

成長ホルモンを自前で出させる、二本立ての組み合わせ

エビデンスの最高段階ヒト第I相・第II相のデータはあるが、いずれも医薬品として承認に至っていない
米国の状況いずれも未承認。イパモレリンは2023年に調剤用バルク原薬 Category 2 へ分類
日本の状況いずれも未承認
既知のリスク成長ホルモン過剰に伴う耐糖能悪化・浮腫・関節痛などの理論的リスク。長期データなし
イパモレリン/CJC-1295

結論(3行)

イパモレリン(Ipamorelin)とは、グレリン受容体(GHS-R1a)に作用して下垂体からの成長ホルモン分泌を促す5アミノ酸の合成ペプチドであり、CJC-1295 とは、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)の類似体を長時間作用化した合成ペプチドである。

作用点が異なるため、海外では「GHRH 側と グレリン側の両方を押す」という理屈でこの二つが併用される。

いずれもヒトでの試験は行われているが、日本でも米国でも医薬品として承認されていない。

イパモレリン/CJC-1295 とは

成長ホルモン(GH)の分泌は、二系統の信号で制御されています。ひとつは GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)で、下垂体に「出せ」と指示します。もうひとつはグレリン系で、GHS-R1a という別の受容体を介して分泌を後押しし、同時にソマトスタチン(抑制側)のブレーキを弱めます。

イパモレリンは後者を狙った分子です。1998年に Raun らが報告したペンタペプチド(Aib-His-D-2-Nal-D-Phe-Lys-NH2)で、論文タイトルがそのまま「最初の選択的成長ホルモン分泌促進薬」でした。それ以前の GHRP-6 や GHRP-2 が ACTH・コルチゾール・プロラクチンまで一緒に動かしたのに対し、イパモレリンは GH をほぼ単独で上げた、という意味の「選択的」です。

CJC-1295は前者、GHRH 側です。GHRH の活性断片である GRF(1-29) にアミノ酸置換を加えて分解耐性を高め、さらに DAC(Drug Affinity Complex)という部分を付けて血中アルブミンに結合させ、作用時間を大幅に延ばした設計です。Teichman らの2006年のヒト第I相では、単回投与で血中 GH が2〜10倍に、IGF-I が1.5〜3倍に上がり、その上昇が日単位で持続したと報告されています。

ここで押さえるべき混乱があります。海外で流通する「CJC-1295 DAC なし(no-DAC)」は DAC を持たない modified GRF(1-29) のことで、作用時間が桁違いに短い別物です。同じ名前で二つの分子が語られており、文献も製品情報もここで食い違います。

研究で分かっていること

段階 対象 内容
動物・in vitro ラット下垂体細胞ほか イパモレリンは GH を選択的に分泌させ、ACTH・コルチゾールを GHRH 刺激時と有意差のない範囲に留めたと報告(Raun ら 1998)
ヒト第I相 健常成人 CJC-1295 単回投与で GH が2〜10倍、IGF-I が1.5〜3倍に上昇し、持続したと報告(Teichman ら 2006)
ヒト第II相 術後イレウス イパモレリンが消化管運動の指標を対象に臨床開発されたが、承認には至らず開発は継続されていない
ヒト(併用) イパモレリンと CJC-1295 の併用を検証した査読付きランダム化比較試験は公表されていない
臨床アウトカム 筋量・体組成・運動能力・健康寿命といった実利的な指標を主要評価項目にした試験の結果は公表されていない

「GH と IGF-I が上がる」ことはヒトで示されています。示されていないのは、その上昇が何の役に立つかです。

分かっていないこと

  • 併用による上乗せ効果。二剤併用のヒト試験成績は公表されていません
  • GH/IGF-I 上昇が体組成・筋力・生活の質にどう反映されるか
  • 長期の安全性。GH 軸を年単位で押し上げ続けた場合の代謝・腫瘍学的影響は評価されていません
  • 内因性の分泌リズムへの影響。GH は本来パルス状に分泌されるホルモンです

日本と米国の承認状況

日本 米国
イパモレリン 未承認 未承認。2023年に 503A 調剤用バルク原薬 Category 2(重大な安全性リスクの懸念)へ分類
CJC-1295 未承認 未承認。2024年9月20日、推薦者が指名を取り下げたため Category 2 の一覧から削除。安全性が認められたという意味ではなく、調剤に使えない状態は変わらない
救済制度 未承認のため医薬品副作用被害救済制度の対象外
ドーピング 世界アンチ・ドーピング機構の禁止表で「成長ホルモン放出因子」として競技内外を問わず禁止 同左

なお、この経路を狙った承認薬は実在します。日本ではグレリン受容体に作用するアナモレリン(エドルミズ)が2021年にがん悪液質を対象に承認され、米国ではマシモレリン(成長ホルモン分泌不全症の診断薬)やテサモレリン(HIV 関連リポジストロフィー)が承認されています。つまり経路の問題ではなく、イパモレリンと CJC-1295 は承認に必要な試験が完了していないだけです。

既知のリスク・副作用

第I相の範囲では、CJC-1295 で注射部位反応や一過性のほてりが報告されています。イパモレリンは選択性が高く、コルチゾール・プロラクチンへの影響は小さいとされます。

より重要なのは、GH/IGF-I を持続的に上げること自体の理論的リスクです。成長ホルモン過剰の臨床像として、耐糖能の悪化、体液貯留による浮腫、関節痛、手根管症候群が古くから知られています。加えて IGF-I は細胞増殖のシグナルであり、既存の腫瘍を持つ人での安全性は評価されていません。

未承認品では、中身が表示どおりか(特に CJC-1295 は DAC の有無で別物です)、純度・不純物・エンドトキシンが管理されているかを第三者が保証していません。

海外で話題になっている理由(ペプチ堂管理人の読み)

この二剤がセットで語られる理由は、はっきりしています。合成 GH そのものは規制が厳しく、価格も高く、外から入れれば内因性の分泌は止まる。それに対して「自分の下垂体に出させる」というストーリーは、はるかに受け入れやすい。しかも GHRH 側とグレリン側という、生理的に本当に別の二系統を押す設計になっている。理屈が綺麗すぎるほど綺麗なんです。

僕が疑っているのは、その綺麗さです。生理学的に筋が通っていることと、臨床的に意味のある結果が出ることの間には大きな距離がある。GH 軸の薬は過去30年、「IGF-I は上がるのにアウトカムが動かない」を何度も繰り返してきた領域です。イパモレリンが術後イレウスの開発から先に進まず、CJC-1295 が20年前の第I相で止まったままであることは、企業の都合というより有効性の壁を疑うほうが自然だと思っています。

もうひとつ、僕が気にしているのは「CJC-1295」という名前が二つの別分子を指してしまっている混乱です。文献を引用しながら実際は別物の話をしている記事が、日本語圏にも英語圏にも溢れている。ここを整理せずに効果を論じても意味がありません。

よくある質問

Q. イパモレリンと CJC-1295 の違いは。 A. イパモレリンはグレリン受容体(GHS-R1a)を刺激する分泌促進薬、CJC-1295 は GHRH 側の受容体に作用する長時間作用型類似体です。作用点が別で、併用が語られるのはこのためです。

Q. 成長ホルモン注射と同じですか。 A. 違います。GH 製剤はホルモンそのものを外から入れますが、この二剤は下垂体に分泌を促します。内因性のフィードバックが残る点が異なりますが、それが臨床的に優れることを示した比較試験はありません。

Q. 筋肉は増えますか。 A. 体組成や筋力を主要評価項目にした試験の結果は公表されていません。GH と IGF-I の血中濃度が上がることは示されていますが、それは別の話です。

Q. 競技者が使うと問題になりますか。 A. 世界アンチ・ドーピング機構の禁止表で「成長ホルモン放出因子」として、競技内外を問わず禁止されています。

関連する成分

  • キスペプチン — 同じホルモン系。視床下部-下垂体軸に作用する
  • BPC-157 — 回復目的で併用が語られることが多い
  • レタトルチド — 承認プロセスを実際に走っているペプチドとの比較用

一次情報

  • Raun K, Hansen BS, Johansen NL, et al. Ipamorelin, the first selective growth hormone secretagogue. European Journal of Endocrinology. 1998;139(5):552-561.
  • Teichman SL, Neale A, Lawrence B, et al. Prolonged stimulation of growth hormone (GH) and insulin-like growth factor I secretion by CJC-1295, a long-acting analog of GH-releasing hormone, in healthy adults. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2006;91(3):799-805.
  • FDA. Bulk Drug Substances Nominated for Use in Compounding Under Section 503A — Interim Category 2 list(イパモレリン酢酸塩の追加、CJC-1295 の削除記録)
  • 世界アンチ・ドーピング機構(WADA). Prohibited List — S2 ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物
  • 医薬品医療機器総合機構(PMDA). エドルミズ錠(アナモレリン塩酸塩)添付文書・審査報告書

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本記事は研究・教育目的の情報提供です。特定の製品の使用を推奨・承認するものではなく、医学的助言ではありません。日本で未承認の医薬品は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。執筆:ペプチ堂管理人/最終更新:2026-08-22