紫外線なしで肌を黒くする合成ペプチド。体の「色素スイッチ」を押すホルモンの改造版。
海外では「日焼けサロンいらず」として20年近く流行。でも米英豪の規制当局が揃って「買うな・使うな」と警告。
日米ともに未承認。ほくろの急増・メラノーマの症例報告が複数あり、このサイトで最も注意を要する成分のひとつ。
結局、なにをする成分?
メラノタンII(Melanotan II、MT-II、メラノタン2)は、α-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)という、体にもともとあるホルモンを改造した合成ペプチドです。
α-MSH は、肌の「色素スイッチ」を押すホルモンです。受容体(細胞の鍵穴)の MC1R を刺激すると、メラニンが作られて肌が黒くなります。
メラノタンII は、この鍵穴の「選び方が雑」なのが特徴です。MC1R(色素)だけでなく、MC3R・MC4R(食欲・性機能・自律神経)にも刺さります。たとえるなら、家の電気のスイッチを押そうとして、廊下も寝室もトイレも全部点けてしまうマスタースイッチです。
もとをたどると1980年代のアリゾナ大学の研究に行き着きます。紫外線を浴びずにメラニンを作れれば皮膚がんを減らせるのでは、という発想で α-MSH の類似体が探索され、2つの系統が生まれました。
- 直鎖型のメラノタンI(アファメラノチド、商品名 SCENESSE):光線過敏を伴う希少疾患を対象に、欧州2014年・米国2019年に承認
- 環状型のメラノタンII:選択性が低く、どこの国でも承認されていない
開発中に勃起が起きたことから、その作用を切り出して作られたのがブレメラノチド(PT-141、商品名 Vyleesi)で、2019年に FDA 承認されました。
つまりメラノタンII は「そこから2つの承認薬が生まれたが、自分自身はどこでも承認されなかった分子」です。
なぜ海外でバズってるのか
日焼けサロンより手軽で、紫外線を浴びないぶん安全に思える。「紫外線を避けられる=皮膚がん予防」という直感が、話を反転させました。英語圏では20年近く流行が続いています。
もうひとつ、派生物(メラノタンI、ブレメラノチド)が承認されたことが「本体も安全」の根拠として語られます。でも論理は逆です。選択性を高め、適応を絞り、臨床試験を通した分子だけが薬になった。選択性の低さこそ、メラノタンII が薬にならなかった理由です。
で、効くの?
| 研究の段階 | 状況 |
|---|---|
| ヒト第III相 | × なし |
| ヒト第II相 | △ 小規模研究で色素沈着は観察。臨床的利益を示した試験はない |
| 動物 | ○ MC1R 刺激でメラニン合成が増加 |
| 試験管 | ○ |
「肌が黒くなる」こと自体は初期のヒト研究で観察されています。ただし、発がん抑制などの臨床的な利益を示した試験はありません。
一方で、ヒトの有害事象については症例報告が複数あります。
ヤバい点は?
皮膚・腫瘍関連(最も重い懸念)
- 異形成母斑とメラノーマの既往を持つ40歳患者で、既存のほくろの変化と非典型的なほくろの新生を報告(Cardones & Grichnik, Archives of Dermatology 2009)
- 無認可の「日焼け注射」使用後にほくろが変化し、組織学的に高度異形成母斑が確認された症例(Langan ら, BMJ 2009)
- メラノタン関連のメラノーマ症例(Paurobally ら, British Journal of Dermatology 2011)
- メラノタン関連の上皮内メラノーマ(Ong & Bowling, Australasian Journal of Dermatology 2012)
- 使用から数週間で多発性の異形成母斑が噴出した25歳男性(Actas Dermo-Sifiliográficas 2012)
- 口腔粘膜メラノーマとの関連を論じた症例報告(International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 2025)
メラノーマとの因果関係は、疫学的には確定していません。でも「因果関係が確定していない」は「無関係が確認された」ではありません。機序(MC1R 刺激はメラノサイトの増殖シグナル)と時間的関係が揃っているとき、無視してよい情報でもありません。
その他
- 悪心・嘔吐、顔面紅潮、あくび、食欲低下、血圧上昇
- 意図しない持続勃起(重症例では緊急処置を要する)
- 未承認品に共通する問題:無菌性が担保されないことによる感染、含有量不明、不純物の混入
分かっていないこと
- メラノーマ発症リスクを定量した疫学データ。使用者の追跡コホートが存在しません
- 既存の異形成母斑や家族性メラノーマ素因を持つ人での安全域
- 色素沈着が紫外線防護として機能するのか。見た目の日焼けが防護と等価である保証はありません
日本と米国の今
| 日本 | 米国・その他 | |
|---|---|---|
| 承認 | なし(未承認) | 米 FDA 未承認。英 MHRA、豪 TGA、欧州のいずれでも未承認 |
| 当局の対応 | 未承認医薬品。国内での販売・広告は不可 | FDA は購入・使用しないよう消費者に警告。英 MHRA は無認可の「日焼け注射」として繰り返し注意喚起。豪 TGA も供給停止措置の対象に |
| 調剤 | ― | 調剤用バルク原薬のカテゴリー2に置かれた後、2026年4月時点で「指名されたが撤回された」一覧に移動。2026年7月の PCAC の審議対象には入っていない |
| 救済制度 | 個人輸入品による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象外 | ― |
ペプチ堂管理人の本音
僕はこのサイトで「入手先・用量・使え」以外は攻めると決めていますが、メラノタンII については攻める以前に、はっきり否定的な評価を書きます。リスクの方向性が他のペプチドと質的に違うからです。
多くの未承認ペプチドは「効くか分からない」が問題の中心です。メラノタンII は違う。効くんです。皮膚は実際に黒くなり、使用者は「効いている」と確信する。ところが、その効いている機序そのもの——MC1R を介したメラノサイトの活性化——が、ほくろの変化やメラノーマの症例報告と地続きになっている。効果と懸念が同じ経路から出る成分は、リスクを切り離しようがありません。
ほくろが多い人、家族にメラノーマの既往がある人には、特に読んでおいてほしい。使用は勧めません。
よくある質問
Q. メラノタンII とメラノタンI は同じですか。 A. 別物です。メラノタンI(アファメラノチド)は直鎖型で希少疾患を対象に欧州2014年・米国2019年に承認済み。メラノタンII は環状型で受容体選択性が低く、どこの国でも承認されていません。
Q. メラノーマになる証拠はあるのですか。 A. 因果関係を証明した疫学研究はありません。ただし2009年以降、ほくろの急速な変化・異形成・メラノーマの症例報告が複数の皮膚科学誌に載っており、機序上も MC1R 刺激はメラノサイトの増殖シグナルです。「証明されていない」を「安全」と読み替えるべきではありません。
Q. 副作用は皮膚以外にもありますか。 A. 悪心・嘔吐、顔面紅潮、血圧上昇、意図しない持続勃起などが報告されています。
Q. 日本では違法ですか。 A. 未承認医薬品であり、国内で医薬品として販売・広告することはできません。個人輸入品による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
関連する成分
- PT-141(ブレメラノチド) — メラノタンII から「勃起作用」だけを切り出して承認された派生物
- GHK-Cu — 同じ美容系。こちらは外用での研究が中心
- グルタチオン — 美白の文脈で対照的に語られる
- BPC-157 — 同じく規制当局が安全性懸念を示したペプチド
出典
- Cardones AR, Grichnik JM. alpha-Melanocyte-stimulating hormone-induced eruptive nevi. Archives of Dermatology. 2009;145(4):441-444.
- Langan EA, Nie Z, Rhodes LE. Change in moles linked to use of unlicensed “sun tan jab”. BMJ. 2009;338:b277.
- Paurobally D, et al. Melanotan-associated melanoma. British Journal of Dermatology. 2011.
- Ong S, Bowling J. Melanotan-associated melanoma in situ. Australasian Journal of Dermatology. 2012.
- Eruptive dysplastic nevi following melanotan use. Actas Dermo-Sifiliográficas. 2012.
- Melanotan II and oral mucosal malignant melanoma(症例報告). International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2025.
- FDA. 未承認の日焼け目的注射剤(Melanotan)に関する消費者向け注意喚起/MHRA(英国). 無認可の日焼け注射に関する注意喚起/TGA(豪州). Melanotan 安全性情報
- FDA. Bulk Drug Substances Nominated for Use in Compounding Under Section 503A — Interim Category 2 list




