メラノタンIIMelanotan II
日焼け不要と謳われた裏で、ほくろの症例報告が積み上がった

結論(3行)
メラノタンII(Melanotan II/MT-II、メラノタン2)とは、α-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)の環状類似体で、MC1R を含む複数のメラノコルチン受容体を非選択的に刺激する合成ペプチドである。
米FDA、英MHRA、豪TGA をはじめとする規制当局はいずれも承認しておらず、購入・使用しないよう警告を出している。
母斑(ほくろ)の急増・黒色化・異形成、およびメラノーマの発症を報告した症例報告が複数の皮膚科学誌に掲載されており、本サイトが扱う成分の中でも最も注意を要する部類に入る。
メラノタンII とは
もとをたどると1980年代のアリゾナ大学の研究に行き着きます。紫外線を浴びずにメラニン合成を促せば皮膚がんを減らせるのでは——という発想で α-MSH の類似体が探索され、二つの系統が生まれました。
ひとつは直鎖型のメラノタンI(アファメラノチド、商品名 SCENESSE)で、光線過敏を伴う希少疾患である骨髄性プロトポルフィリン症を対象に欧州2014年・米国2019年に承認されています。
もうひとつが環状型のメラノタンII です。受容体選択性が低く、MC1R(色素産生)だけでなく MC3R・MC4R(食欲・性機能・自律神経)にも作用します。開発中に勃起が生じたことから、その作用を切り出して開発されたのがブレメラノチド(PT-141、商品名 Vyleesi)で、2019年に FDA 承認されました。
つまりメラノタンII は「そこから二つの承認薬が生まれたが、自分自身はどこの国でも承認されなかった分子」です。派生物の承認が本体の正当化に使われますが、論理は逆で、選択性の低さこそが薬にならなかった理由です。
研究で分かっていること
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 薬理(動物・in vitro) | MC1R 刺激でメラニン合成が亢進。MC3R/MC4R 刺激で摂食抑制と勃起が生じる |
| ヒト(小規模研究) | 皮膚の色素沈着が増すことは初期研究で観察。発がん抑制などの臨床的利益を示した試験はない |
| ヒト(有害事象) | 母斑の新生・黒色化・異形成、メラノーマの発症を報告した症例報告が複数 |
| 派生分子 | アファメラノチド(EMA 2014/FDA 2019)、ブレメラノチド(FDA 2019)は承認済み。メラノタンII 自体は未承認 |
| 因果関係 | メラノーマとの因果関係は症例報告の集積段階で、疫学的に確定していない |
最後の行は重要です。「因果関係が確定していない」は「無関係が確認された」ではありません。症例報告は因果を証明しませんが、機序と時間的関係が揃っているとき、無視してよい情報でもありません。
分かっていないこと
- メラノーマ発症リスクを定量した疫学データ。使用者の追跡コホートが存在しません
- 既存の異形成母斑や家族性メラノーマ素因を持つ人での安全域
- 色素沈着が紫外線防護として機能するのか。見た目の日焼けが防護と等価である保証はありません
日本と米国の承認状況
| 日本 | 米国・その他 | |
|---|---|---|
| 承認 | なし(未承認) | 米FDA 未承認。英MHRA、豪TGA、欧州のいずれでも未承認 |
| 当局の対応 | 未承認医薬品。国内での販売・広告は不可 | FDA は購入・使用しないよう消費者に警告。英MHRA は無認可の「日焼け注射」として繰り返し注意喚起。豪TGA も供給停止措置の対象としてきた |
| 調剤 | ― | 2023年に 503A 調剤用バルク原薬 Category 2 へ分類。FDA は2027年2月末までに諮問委員会で再審議する予定を公表 |
| 救済制度 | 個人輸入品による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象外 | ― |
日本では未承認で、品質・純度・含有量を保証する主体が存在しません。厚生労働省は個人輸入医薬品全般について、健康被害が生じても公的な救済の対象にならないと繰り返し注意喚起しています。
既知のリスク・副作用
皮膚・腫瘍関連(最も重い懸念)
- Cardones と Grichnik は、異形成母斑とメラノーマの既往を持つ40歳患者で、既存母斑の変化と非典型的な母斑の新生を報告(Archives of Dermatology, 2009)
- Langan らは、無認可の「日焼け注射」使用後に母斑が変化し、組織学的に高度異形成母斑が確認された症例を報告(BMJ, 2009)
- Paurobally らはメラノタン関連のメラノーマ症例を報告(British Journal of Dermatology, 2011)
- Ong と Bowling はメラノタン関連の上皮内メラノーマを報告(Australasian Journal of Dermatology, 2012)
- 使用から数週間で多発性の異形成母斑が噴出した25歳男性の症例(Actas Dermo-Sifiliográficas, 2012)
- 口腔粘膜メラノーマとの関連を論じた症例報告(International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, 2025)
その他
悪心・嘔吐、顔面紅潮、あくび、食欲低下、血圧上昇、意図しない持続勃起(重症例では緊急処置を要する)などが報告されています。
さらに未承認品には、無菌性が担保されないことによる感染、含有量不明、不純物の混入といった製品側のリスクが加わります。
海外で話題になっている理由(ペプチ堂管理人の読み)
僕はこのサイトで「入手先・用量・使え」以外は攻めると決めていますが、メラノタンII については攻める以前にはっきり否定的な評価を書きます。リスクの方向性が他のペプチドと質的に違うからです。
多くの未承認ペプチドは「効くか分からない」が問題の中心です。メラノタンII は違う。効くんです。皮膚は実際に黒くなり、使用者は「効いている」と確信する。ところが、その効いている機序そのもの——MC1R を介したメラノサイトの活性化——が、母斑の変化やメラノーマの症例報告と地続きになっている。効果と懸念が同じ経路から出る成分は、リスクを切り離しようがありません。
英語圏で20年近く流行が続いた理由も分かります。日焼けサロンより手軽で、紫外線を浴びないぶん安全に思える。「紫外線を避けられる=皮膚がん予防」という直感が話を反転させた。しかし2009年以降、皮膚科の症例報告は着実に積み上がっています。
派生分子が承認された事実の使われ方にも一言。あれは「親戚が薬になったから本体も安全」ではなく、「選択性を高め適応を絞り、臨床試験を通した分子だけが薬になった」という話で、むしろメラノタンII が承認されなかった理由を示しています。ほくろが多い人、家族にメラノーマの既往がある人には、特に読んでおいてほしい。
よくある質問
Q. メラノタンII とメラノタンI は同じですか。 A. 別物です。メラノタンI(アファメラノチド)は直鎖型で希少疾患を対象に欧州2014年・米国2019年に承認済み。メラノタンII は環状型で受容体選択性が低く、どこの国でも承認されていません。
Q. メラノーマになる証拠はあるのですか。 A. 因果関係を証明した疫学研究はありません。ただし2009年以降、母斑の急速な変化・異形成・メラノーマの症例報告が複数の皮膚科学誌に掲載されており、機序上も MC1R 刺激はメラノサイトの増殖シグナルです。「証明されていない」を「安全」と読み替えるべきではありません。
Q. 日本では違法ですか。 A. 未承認医薬品であり、国内で医薬品として販売・広告することはできません。個人輸入品による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
関連する成分
一次情報
- Cardones AR, Grichnik JM. alpha-Melanocyte-stimulating hormone-induced eruptive nevi. Archives of Dermatology. 2009;145(4):441-444.
- Langan EA, Nie Z, Rhodes LE. Change in moles linked to use of unlicensed “sun tan jab”. BMJ. 2009;338:b277.
- Paurobally D, et al. Melanotan-associated melanoma. British Journal of Dermatology. 2011.
- Ong S, Bowling J. Melanotan-associated melanoma in situ. Australasian Journal of Dermatology. 2012.
- Eruptive dysplastic nevi following melanotan use. Actas Dermo-Sifiliográficas. 2012.
- Melanotan II and oral mucosal malignant melanoma(症例報告). International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2025.
- FDA. 未承認の日焼け目的注射剤(Melanotan)に関する消費者向け注意喚起/MHRA(英国). 無認可の日焼け注射に関する注意喚起/TGA(豪州). Melanotan 安全性情報
- FDA. Bulk Drug Substances Nominated for Use in Compounding Under Section 503A — Interim Category 2 list
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