セマグルチド・チルゼパチドの「次」を狙う開発中の薬4つ。MariTide、アミクレチン、CagriSema、survodutide。
海外では第II相で13〜24%減の数字が出て騒がれているが、勝負はもう「何%痩せるか」ではなく「楽に・安く・戻らないか」。
2026年8月時点で日米ともに全部未承認。日本で正規に使う手段は治験参加しかない。
結局、なにをする成分?
チルゼパチドは「GIP+GLP-1」、レタトルチドは「GIP+GLP-1+グルカゴン」と、受容体(細胞の鍵穴)を足していきました。次世代の候補は、やり方がばらけています。
- MariTide(maridebart cafraglutide、AMG 133):アムジェン。GIP 受容体を遮断する抗体に、GLP-1 作動ペプチドを2本つないだ「ペプチド抗体複合体」。チルゼパチドが GIP を刺激するのとは正反対の設計。体に長く残るので月1回投与が可能
- アミクレチン(amycretin):ノボ ノルディスク。GLP-1 受容体とアミリン受容体の両方に効く1本のペプチド。注射と経口の両方を開発中
- CagriSema(カグリセマ):ノボ ノルディスク。セマグルチド2.4mgと、長時間作用型アミリン類似体のカグリリンチド2.4mgを週1回で併用する固定配合
- survodutide(スルボデュチド、BI 456906):ベーリンガーインゲルハイムと Zealand Pharma。GLP-1 とグルカゴンの二重作動薬で、肥満に加えて脂肪肝炎(MASH)を主なターゲットにしている
アミリンは、膵臓のβ細胞からインスリンと一緒に出るホルモンで、満腹感と胃の動きに関わります。GLP-1 とは別のルートで食欲に効くので、「2本のブレーキを同時に踏む」ことで効果の上乗せと悪心の軽減が期待されています。
なぜ海外でバズってるのか
減量幅の「天井」を誰が突き破るか、というレースだからです。MariTide の月1回投与、アミクレチンの経口化、survodutide の肝臓狙いは、それぞれ「次の勝ち筋」として語られています。
もうひとつは、残念ながら通販です。カグリリンチドや survodutide の「研究用」粉末が海外サイトに並び、承認どころか第III相も終わっていない物質が流通しています。
で、効くの?
| 研究の段階 | 状況 |
|---|---|
| ヒト第III相 | △ CagriSema は完了(REDEFINE)、他3つは進行中 |
| ヒト第II相 | ○ 4剤とも結果あり |
| 動物 | ○ |
| 試験管 | ○ |
報告されている数字です。
- MariTide:第II相、52週で最大 約−20%(月1回投与)(Jastreboff, NEJM 2025)。第III相 MARITIME 進行中
- アミクレチン(注射):第Ib/IIa相、36週で最大 −24.3%(Friedrichsen, Lancet 2025)
- アミクレチン(経口):第I相、12週で −13.1%(Gasiorek, Lancet 2025)
- CagriSema:REDEFINE 1(第III相)、68週で −20.4%、セマグルチド単独 −14.9%(Garvey, NEJM 2025)
- survodutide(肥満):第II相、46週で最大 −14.9%、治療継続時 −18.7%(le Roux, Lancet Diabetes Endocrinol 2024)。第III相 SYNCHRONIZE 進行中
- survodutide(MASH):第II相、48週で MASH 改善 最大83%(Sanyal, NEJM 2024)。第III相 LIVERAGE 進行中
数字の読み方に注意です。アミクレチンの24.3%は小規模な早期試験、MariTide の20%は第II相。第III相を終えた CagriSema より不確実です。
CagriSema は第III相で20.4%を出しましたが、会社が事前に示した25%という目標に届かず、株価が大きく下がって「期待外れ」と報じられました。数字が悪いのではなく、期待が先に膨らんでいた、という話です。
ヤバい点は?
- 消化器症状:4剤すべてで悪心・嘔吐・下痢・便秘が最多。MariTide は第II相で高用量開始群の悪心が特に目立ち、第III相で用量の上げ方が見直されています
- グルカゴン作用(survodutide):心拍数上昇や血糖への影響が理論上懸念され、第III相で監視中
- 注射部位反応(CagriSema、アミクレチン):アミリン系に特有の反応が報告されています
- GIP は遮断と刺激、どっちが正しい?:チルゼパチド(刺激)と MariTide(遮断)が両方痩せる矛盾は、まだ生理学的に説明しきれていません
- やめた後:月1回投与や長時間作用型で「やめた後」がどうなるかのデータはほぼありません
- 心血管データ:セマグルチドの SELECT に相当する試験はすべて進行中か未着手
- 日本人データ:いずれも日本人での第III相結果は未公表
- 市販後データなし:承認前なので当然ゼロです
- 偽物:海外通販の「Cagrilintide」「Survodutide」粉末は承認薬でも治験薬でもなく、医薬品副作用被害救済制度の対象外です
日本と米国の今
| 薬剤 | 米国(FDA) | 日本(PMDA) |
|---|---|---|
| MariTide | 未承認(第III相) | 未承認 |
| アミクレチン | 未承認(第III相) | 未承認 |
| CagriSema | 未承認(承認申請段階と報じられている) | 未承認 |
| survodutide | 未承認(第III相) | 未承認 |
4つとも未承認で、日本で正規に入手する手段は治験参加以外にありません。
ペプチ堂管理人の本音
僕の見立てでは、次世代の勝負はもう「何%痩せるか」ではありません。チルゼパチドの20%、レタトルチドの24%で減量幅はほぼ天井に近い。ここから先は「どれだけ楽に、安く、筋肉を残して、やめた後に戻らないか」の戦いです。
MariTide の月1回、アミクレチンの経口化、survodutide の肝臓狙いは全部その文脈で読むべきです。CagriSema が「25%に届かなかった」と叩かれたのは、市場がまだ古い物差しで見ている証拠だと思います。
そして本当に話題になっているのは、この中で一番データの薄いものが通販に並んでいるからです。第II相の数字を見て未承認薬に手を出す人が、この分野の信用を削っている。4つとも、あと2〜3年待てば正規の形で答えが出ます。使用は勧めません。
よくある質問
Q. 次世代 GLP-1 薬で一番痩せるのは? A. 単純比較はできません。試験の段階も期間も対象も違うためです。第III相で数字が出ているのは CagriSema(68週で20.4%)で、アミクレチンの24.3%は小規模な早期試験の結果です。
Q. MariTide とチルゼパチドの違いは? A. どちらも GIP と GLP-1 に関わりますが、チルゼパチドは GIP 受容体を刺激し、MariTide は遮断します。MariTide は抗体を使った構造で月1回投与が可能です。
Q. CagriSema はいつ承認される? A. 承認申請段階と報じられていますが、2026年8月時点で米国・日本ともに未承認で、承認時期は公表されていません。
Q. 日本で個人輸入すると違法? A. 未承認医薬品であり、国内で医薬品として販売・広告することはできません。個人輸入品で健康被害が出ても救済制度の対象外です。
関連する成分
- レタトルチド — 同じ「次世代」枠のトリプル作動薬
- チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド) — 現在の基準線
- セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ/リベルサス) — CagriSema の片割れ
- カグリリンチド(カグリセマ) — CagriSema のもう片方。単独ページで詳しく
- オルフォルグリプロン — 経口の次世代候補
- チルゼパチド vs セマグルチド 徹底比較 — 「次」が超えるべき現在の基準線
- 速報:GLP-1を「止める」薬が、第III相に届いた — 増やす方向ではなく、抑える方向の候補
- 速報:GLP-1を「抑える」薬に、500億円が集まった — 商業化準備の増資
出典
- Jastreboff AM, et al. Once-Monthly Maridebart Cafraglutide for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2025.(MariTide 第II相)
- Friedrichsen M, et al. Lancet. 2025.(アミクレチン皮下注 第Ib/IIa相)
- Gasiorek A, et al. Lancet. 2025.(アミクレチン経口 第I相)
- Garvey WT, et al. N Engl J Med. 2025.(REDEFINE 1)
- le Roux CW, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2024;12:162-173.(survodutide 第II相・肥満)
- Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2024;391:311-319.(survodutide 第II相・MASH)
- ClinicalTrials.gov:MARITIME、REDEFINE、SYNCHRONIZE、LIVERAGE 各プログラム
- 医薬品の個人輸入のルール




