チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)Tirzepatide
GIPとGLP-1を同時に叩く、現時点で最も減量効果が大きい承認薬

結論(3行)
チルゼパチド(Tirzepatide)とは、GIP受容体とGLP-1受容体の2つに同時に作用する週1回皮下注射の「二重作動薬」であり、イーライリリーが開発した承認薬である。米国では2型糖尿病薬「Mounjaro(マンジャロ)」と肥満症薬「Zepbound(ゼップバウンド)」として、日本でも同名で承認・販売されている。第III相試験では72週で平均約20%の体重減少が報告されており、現在流通する肥満症治療薬の中では最も減量幅が大きい部類に入る。
チルゼパチドとは
チルゼパチド(開発コード LY3298176)は39個のアミノ酸からなる合成ペプチドで、天然のGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の構造をベースに、GLP-1受容体にも結合できるよう設計されています。脂肪酸側鎖を付けて血中のアルブミンと結合させることで半減期を約5日に延ばし、週1回の注射で済むようにしています。
GLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)が「食欲を抑え、胃の動きをゆっくりにし、血糖に応じてインスリン分泌を促す」のに対し、チルゼパチドはそこにGIP受容体への作用を上乗せしています。GIPが減量にどう寄与するかは完全には解明されていませんが、脂肪組織への作用や、GLP-1による悪心を和らげる方向に働く可能性が議論されています。表記は「チルゼパチド」が正式ですが、「ティルゼパチド」「チルゼパタイド」と揺れることがあります。
研究で分かっていること
| 試験名 | 段階 | 対象 | 主な結果 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| SURMOUNT-1 | 第III相 | 肥満(糖尿病なし) | 72週で15mg群 平均−20.9%(プラセボ −3.1%) | Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2022 |
| SURMOUNT-2 | 第III相 | 肥満+2型糖尿病 | 72週で15mg群 平均−14.7% | Garvey WT, et al. Lancet. 2023 |
| SURMOUNT-1(3年延長) | 第III相 | 前糖尿病を伴う肥満 | 176週で2型糖尿病への進行リスクを大幅に低下 | Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2025 |
| SURMOUNT-OSA | 第III相 | 肥満+閉塞性睡眠時無呼吸 | 無呼吸低呼吸指数(AHI)を有意に改善 | Malhotra A, et al. N Engl J Med. 2024 |
| SURMOUNT-5 | 第IIIb相(非盲検) | 肥満(糖尿病なし) | 72週でチルゼパチド −20.2% vs セマグルチド −13.7% | Aronne LJ, et al. N Engl J Med. 2025 |
ポイントは2つです。第一に、SURMOUNT-1の「約20%」はプラセボ対照の第III相で出た数字であり、レタトルチドのような開発中の薬の第II相データとは信頼度が違います。第二に、SURMOUNT-5はセマグルチド2.4mgとの直接比較(head-to-head)で、同じ条件下でチルゼパチドの方が減量幅が大きいことを示しました。ただし非盲検であり、被験者が自分の薬を知っている点は割り引いて読む必要があります。
分かっていないこと
- 中止後の体重再増加:SURMOUNT-4(Aronne LJ, et al. JAMA. 2024)では、36週投与後にプラセボへ切り替えた群は52週で体重の相当部分が戻ったと報告されています。どれだけの期間使い続けるべきか、減量後の「出口戦略」はまだ確立していません。
- 除脂肪量(筋肉)の減少:体重減少の一部は筋肉や骨量の減少を含みます。その長期的な意味は未解明です。
- 心血管アウトカム:セマグルチドのSELECT試験に相当する、肥満症での心血管イベント抑制データは本稿執筆時点で確認できていません。
- 10年単位の安全性:承認から数年しか経っておらず、超長期のデータはありません。
日本と米国の承認状況
| 米国(FDA) | 日本(PMDA/厚労省) | |
|---|---|---|
| 2型糖尿病 | Mounjaro、2022年5月承認 | マンジャロ、2022年9月承認・2023年4月発売 |
| 肥満症 | Zepbound、2023年11月承認 | ゼップバウンド、2024年12月承認・2025年4月発売 |
| 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA) | Zepbound、2024年12月承認 | ゼップバウンド、2026年5月に適応追加 |
日本のゼップバウンドには「最適使用推進ガイドライン」が設けられており、BMIや合併症などの条件を満たす患者に、一定の要件を満たす医療機関でのみ処方されます。つまり「承認薬」であっても、誰でも自由に処方を受けられる薬ではありません。また、海外製品の個人輸入品や、いわゆる「研究用」として流通するチルゼパチド粉末は日本の承認薬ではなく、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
既知のリスク・副作用
- 消化器症状:悪心、嘔吐、下痢、便秘、食欲不振が最も多く、SURMOUNT-1では用量増量期に集中して報告されています。
- 膵炎・胆嚢疾患:GLP-1系薬に共通するリスクとして添付文書に記載されています。
- 低血糖:単独では起こりにくいものの、SU薬やインスリンとの併用で増えます。
- 甲状腺C細胞腫瘍:げっ歯類での所見に基づき、米国では枠組み警告(Boxed Warning)が付いています。ヒトでのリスクは確定していません。
- その他:脱毛、注射部位反応、全身麻酔時の誤嚥リスク(胃内容物の停滞)。
海外で話題になっている理由(ペプチ堂管理人の読み)
僕がチルゼパチドを「痩せ薬の現在地」だと考えるのは単純で、承認薬の中で一番痩せる薬だからです。SURMOUNT-5でセマグルチドに頭一つ抜けた差をつけた時点で、英語圏の議論は「オゼンピックかマンジャロか」から「マンジャロの次は何か」に移りました。レタトルチドやMariTideが騒がれるのは、チルゼパチドが基準線を引き上げたからです。
ただ、この薬が海外で「話題」になっている理由の半分は、正規ルート以外で出回っているからだと僕は見ています。米国では供給不足を背景に調剤薬局の複製品(compounded)が大量に流れ、日本でも海外通販の粉末が「リサーチ用」の名目で売られています。承認薬と同じ名前でも、中身が同じである保証はどこにもありません。僕はGLP-1系の薬そのものは肥満治療を大きく前進させたと思っていますが、救済制度の外で、医師の目もないまま使うことは肥満治療ではなく実験です。正規の処方で使う人と、雑に手を出す人の差は、これから数年で結果としてはっきり出てくるはずです。
よくある質問
Q. マンジャロとゼップバウンドは何が違う? A. 有効成分はどちらもチルゼパチドで同一です。違いは承認された適応症で、マンジャロは2型糖尿病、ゼップバウンドは肥満症(および日本では2026年からOSA)です。
Q. セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ)より効く? A. SURMOUNT-5(NEJM 2025)では72週時点の体重減少がチルゼパチド20.2%、セマグルチド13.7%と報告されています。ただし「効く」かどうかは目的と体質によるため、この数字だけで優劣を決めるものではありません。
Q. 副作用で一番多いのは? A. 悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状です。多くは増量期に出て時間とともに軽くなると報告されていますが、膵炎や胆嚢疾患など重いものもあります。
Q. 日本で個人輸入すると違法? A. 自己使用目的の一定量の輸入は即違法ではありませんが、承認薬ではないため救済制度の対象外で、品質の保証もありません。ペプチ堂は個人輸入を勧めません。詳しくは医薬品の個人輸入のルールを参照してください。
関連する成分
- レタトルチド — チルゼパチドにグルカゴン受容体作用を加えた「次」の候補
- セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ/リベルサス) — 直接比較の相手
- オルフォルグリプロン — 同じリリーの経口薬
- 次世代GLP-1系薬の一覧
一次情報
- Jastreboff AM, et al. Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2022;387:205-216.(SURMOUNT-1)
- Garvey WT, et al. Lancet. 2023;402:613-626.(SURMOUNT-2)
- Aronne LJ, et al. JAMA. 2024;331:38-48.(SURMOUNT-4、中止後の再増加)
- Malhotra A, et al. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205.(SURMOUNT-OSA)
- Aronne LJ, et al. Tirzepatide as Compared with Semaglutide for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2025;393:26-36.(SURMOUNT-5)
- Jastreboff AM, et al. Tirzepatide for Obesity Treatment and Diabetes Prevention. N Engl J Med. 2025.(SURMOUNT-1 3年延長)
- FDA:Zepbound(tirzepatide)添付文書/承認情報
- PMDA:ゼップバウンド皮下注 審査報告書・最適使用推進ガイドライン
同じカテゴリの成分
セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ/リベルサス)
GLP-1ブームの本流。注射も飲み薬も揃った基準薬
テサモレリン(Egrifta)
内臓脂肪を狙う唯一の承認GHRHアナログ。ただし適応はHIV患者のみ
チモシンα1
35か国以上で承認済み。ただし米国とEUは、いまだに承認していない
オキシトシン
分娩の現場では必須の承認薬。「愛情ホルモン」の話とは別の薬である