No.016承認薬

テサモレリン(Egrifta)Tesamorelin

内臓脂肪を狙う唯一の承認GHRHアナログ。ただし適応はHIV患者のみ

エビデンスの最高段階第III相(NEJM 2007、JCEM 2010)26週で内臓脂肪面積 約15%減少。肝脂肪でも第II相で減少
米国の状況承認済み(Egrifta 2010年/Egrifta SV 2018年/Egrifta WR 2025年3月。HIV関連リポジストロフィーの内臓脂肪蓄積)
日本の状況未承認
既知のリスク注射部位反応、関節痛、末梢浮腫、耐糖能悪化、IGF-1上昇。活動性悪性腫瘍・妊娠中は禁忌
テサモレリン(Egrifta)

結論(3行)

テサモレリン(Tesamorelin)とは、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)の構造を安定化させた合成ペプチドであり、米国で「Egrifta(エグリフタ)」として承認されている。適応はHIV感染者のリポジストロフィーに伴う過剰な内臓脂肪の減少に限られ、第III相試験では26週で内臓脂肪面積が約15%減少した。健常人の腹部脂肪減少やアンチエイジング目的の使用は承認外で、日本では未承認である。

テサモレリンとは

テサモレリンは、ヒトGHRH(44アミノ酸)のN末端にトランス-3-ヘキセン酸を付加して、血中での分解を遅らせた誘導体です。カナダのTheratechnologies社が開発し、2010年に米国FDAが承認しました。GHRHは視床下部から分泌され、下垂体に成長ホルモン(GH)の分泌を促すホルモンです。テサモレリンは外から成長ホルモンそのものを入れるのではなく、下垂体に「自分で出させる」点が特徴で、GHの拍動的な分泌パターンが保たれるとされます。

成長ホルモンは脂肪分解を促し、とくに内臓脂肪を減らす作用があります。HIV感染者では抗レトロウイルス療法の影響で腹部の内臓脂肪が異常に蓄積する「リポジストロフィー」が起こることがあり、テサモレリンはこの症状に対する唯一の承認薬です。表記は「テサモレリン」のほか「テサモレリン酢酸塩」「エグリフタ」があります。

研究で分かっていること

試験 段階 対象 主な結果 出典
第III相(北米) 第III相 HIV+腹部脂肪蓄積 412人 26週で内臓脂肪面積 −15.2%(プラセボ +5.0%) Falutz J, et al. N Engl J Med. 2007
第III相(2試験統合) 第III相 HIV+腹部脂肪蓄積 816人 26週で内臓脂肪 −15.4%、52週継続で維持。中止で再増加 Falutz J, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2010
肝脂肪試験 第II相(RCT) HIV+腹部脂肪蓄積 50人 6か月で肝脂肪率を有意に低下 Stanley TL, et al. JAMA. 2014
NAFLD試験 第II相(RCT) HIV+脂肪肝 61人 12か月で肝脂肪 −37%相対減少、線維化進行を抑制 Stanley TL, et al. Lancet HIV. 2019
製剤変更(F8) 生物学的同等性 健常人 週1回調製の新製剤が旧製剤と同等 FDA承認情報(Egrifta WR、2025年)

ポイントは、効果が実証されているのは「HIV感染者の内臓脂肪」であり、皮下脂肪や体重全体はほとんど変わらないことです。NEJM 2007の試験でも体重の変化はわずかで、減るのは内臓脂肪と胴囲です。また2010年の統合解析では、26週で投与をやめた群は内臓脂肪がほぼ元に戻っています。

分かっていないこと

  • HIVでない人への効果:健常肥満者を対象とした大規模試験はありません。減量薬として機能する根拠は不十分です。
  • 長期の発がんリスク:IGF-1を上昇させるため、悪性腫瘍との関連は理論上懸念されています。長期データは限られています。
  • 心血管アウトカム:内臓脂肪の減少が心血管イベントの減少につながるかは検証されていません。
  • 日本人データ:日本人を対象とした試験は確認できていません。

日本と米国の承認状況

米国(FDA) 日本(PMDA)
Egrifta(1mg、1日1回) 2010年11月承認 未承認
Egrifta SV(2mg、高濃度製剤) 2018年11月承認 未承認
Egrifta WR(F8製剤、週1回調製) 2025年3月25日承認・2025年9月発売 未承認

日本では適応の有無にかかわらず未承認で、国内で処方を受ける手段はありません。米国でも承認はHIV関連リポジストロフィーに限られ、欧州では2010年に承認申請が取り下げられています。海外通販の「Tesamorelin」粉末は承認薬ではなく、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。

既知のリスク・副作用

  • 注射部位反応:紅斑、かゆみ、疼痛が最多(第III相で約20%)。
  • 関節痛・末梢浮腫・手根管症候群:成長ホルモン作用に伴う体液貯留によるもの。
  • 耐糖能の悪化:血糖・HbA1cの上昇が報告されており、糖尿病患者では慎重投与。
  • IGF-1上昇:添付文書ではIGF-1のモニタリングが求められます。活動性の悪性腫瘍では禁忌。
  • 過敏症:発疹、まれにアナフィラキシー。
  • 禁忌:下垂体の障害、妊娠中、活動性悪性腫瘍。

海外で話題になっている理由(ペプチ堂管理人の読み)

テサモレリンが英語圏のペプチド界隈で人気なのは、「承認薬で内臓脂肪が15%減る」という数字がひとり歩きしているからだと僕は見ています。CJC-1295やイパモレリンのような未承認の成長ホルモン分泌促進ペプチドと違って、FDAの審査を通った第III相データがある。それが「安全で効く」という誤解に化けています。

でも数字の出どころはHIV患者のリポジストロフィーで、健常者のお腹で同じことが起こる保証はどこにもありません。しかも中止したら戻る。僕はGLP-1系の減量薬を肯定する立場ですが、それは何万人規模の第III相で体重も心血管リスクも動かしたからです。テサモレリンはその物差しに乗っていません。「成長ホルモンを自前で出させるから自然」という売り文句も、IGF-1が上がる以上リスクは外因性GHと地続きです。承認薬であることと、自分の目的に承認されていることは別です。そこを混同した使い方は、僕が一番嫌う「承認薬の名前を借りた乱用」です。

よくある質問

Q. テサモレリンは何に承認されている? A. 米国では、HIV感染者のリポジストロフィーに伴う過剰な腹部内臓脂肪の減少に承認されています。それ以外の目的(一般的な肥満、美容、アンチエイジング)は適応外です。

Q. 体重は減る? A. 第III相試験では内臓脂肪面積と胴囲は減りましたが、体重そのものの変化はわずかでした。減量薬ではありません。

Q. 成長ホルモン注射と何が違う? A. テサモレリンは下垂体を刺激して自分の成長ホルモンを分泌させるGHRHアナログです。ただしIGF-1が上昇する点は共通で、リスクがないわけではありません。

Q. 日本で使える?違法? A. 日本では未承認で、国内で処方は受けられません。自己使用目的の個人輸入は即違法ではありませんが、救済制度の対象外です。ペプチ堂は勧めません。医薬品の個人輸入のルールを参照してください。

関連する成分

一次情報

  • Falutz J, et al. Metabolic Effects of a Growth Hormone–Releasing Factor in Patients with HIV. N Engl J Med. 2007;357:2359-2370.(第III相)
  • Falutz J, et al. Effects of tesamorelin (TH9507), a growth hormone-releasing factor analog, in HIV-infected patients with excess abdominal fat: a pooled analysis of two multicenter, double-blind placebo-controlled phase 3 trials with safety extension data. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95:4291-4304.
  • Stanley TL, et al. Effects of tesamorelin on visceral fat and liver fat in HIV-infected patients with abdominal fat accumulation. JAMA. 2014;312:380-389.
  • Stanley TL, et al. Effects of tesamorelin on non-alcoholic fatty liver disease in HIV: a randomised, double-blind, multicentre trial. Lancet HIV. 2019;6:e821-e830.
  • FDA:Egrifta/Egrifta SV/Egrifta WR(tesamorelin)添付文書・承認情報

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本記事は研究・教育目的の情報提供です。特定の製品の使用を推奨・承認するものではなく、医学的助言ではありません。日本で未承認の医薬品は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。執筆:ペプチ堂管理人/最終更新:2026-08-22