何者? 内臓脂肪を減らすことが臨床試験で示された、唯一の承認 GHRH アナログ。
海外では? 「承認薬で内臓脂肪が15%減る」という数字がひとり歩きしている。
日本では? 未承認。米国でも適応は HIV 感染者に限られます。
結局、なにをする成分?
テサモレリンは、ヒト GHRH(成長ホルモン放出ホルモン、44アミノ酸)を改造した誘導体です。
N末端にトランス-3-ヘキセン酸をくっつけて、血中で分解されにくくしてあります。カナダの Theratechnologies 社が開発し、2010年に米国 FDA が承認しました。
GHRH は視床下部から出て、下垂体に「成長ホルモン(GH)を出せ」と指示するホルモンです。テサモレリンは GH そのものを外から入れるのではなく、下垂体に自分で出させます。GH の拍動的な分泌パターンが保たれるとされます。
司令塔に指示を出す、という設計です。工場に製品を運び込むのではなく、工場長に「作れ」と言う。同じ結果を狙っても、経路がまるで違います。
成長ホルモンは脂肪分解を促し、とくに内臓脂肪を減らします。HIV 感染者では抗レトロウイルス療法の影響で腹部の内臓脂肪が異常に溜まる「リポジストロフィー」が起こることがあり、テサモレリンはこの症状に対する唯一の承認薬です。
表記は「テサモレリン」のほか「テサモレリン酢酸塩」「エグリフタ」があります。
なぜ海外でバズってるのか
理由ははっきりしています。数字です。
第III相試験で、26週で内臓脂肪面積が約15%減った。しかも FDA の審査を通っている。CJC-1295 やイパモレリンのような未承認ペプチドとは、データの重みが違います。
その事実が、英語圏のペプチド界隈で「安全で効く成分」という誤解に化けました。
でも数字の出どころは HIV 患者のリポジストロフィーです。健常者のお腹で同じことが起こる保証は、どこにもありません。
内臓脂肪という言葉の強さも大きいと思います。健康診断で毎年気にしている数字であり、見た目にも直結する。そこに「15%減る」という具体的な数値と、FDA という三文字が並べば、話が独り歩きするのは無理もありません。
で、効くの?
| 研究の段階 | 到達 | 中身 |
|---|---|---|
| ヒト第III相 | ○ | HIV+腹部脂肪蓄積412人。26週で内臓脂肪面積 −15.2%(プラセボ +5.0%)。Falutz J, et al. N Engl J Med. 2007 |
| ヒト第III相(統合) | ○ | 2試験816人。26週で内臓脂肪 −15.4%、52週継続で維持。中止すると再増加。J Clin Endocrinol Metab. 2010 |
| ヒト第II相(RCT) | ○ | HIV+脂肪肝50人で6か月後に肝脂肪率が有意に低下(JAMA. 2014)。61人・12か月では肝脂肪 −37%相対減少、線維化進行を抑制(Lancet HIV. 2019) |
| ヒト(HIV以外) | × | 健常肥満者を対象とした大規模試験はありません |
ポイントは、効果が実証されているのが「HIV 感染者の内臓脂肪」だという点です。皮下脂肪や体重全体はほとんど変わりません。NEJM 2007 でも体重の変化はわずかで、減るのは内臓脂肪と胴囲です。
しかも2010年の統合解析では、26週で投与をやめた群の内臓脂肪はほぼ元に戻っています。
長期の発がんリスク、心血管イベントへの影響、日本人データ——いずれも確認できていません。
整形外科・スポーツ医学の文脈でも、2026年の系統的レビュー(Mayfield CK, et al. Am J Sports Med. 2026;54(1):223-229、PMID 41476424、本稿でNCBI E-utilitiesにより直接確認)がテサモレリンを取り上げ、「HIV関連脂肪萎縮症の治療には承認されているが、整形外科的なエビデンスはない(has no supporting orthopaedic evidence)」と明記しています。承認は本物ですが、承認された範囲の外では別の成分と同じ「データなし」です。
ヤバい点は?
- 注射部位反応:紅斑、かゆみ、疼痛が最多(第III相で約20%)。
- 関節痛・末梢浮腫・手根管症候群:成長ホルモン作用に伴う体液貯留によるもの。
- 耐糖能の悪化:血糖・HbA1c の上昇が報告されており、糖尿病患者では慎重投与。
- IGF-1 上昇:添付文書では IGF-1 のモニタリングが求められます。
- 過敏症:発疹、まれにアナフィラキシー。
- 禁忌:下垂体の障害、妊娠中、活動性悪性腫瘍。
- 海外通販の「Tesamorelin」粉末は承認薬ではなく、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
日本と米国の今
| 米国(FDA) | 日本(PMDA) | |
|---|---|---|
| Egrifta(1mg、1日1回) | 2010年11月承認 | 未承認 |
| Egrifta SV(2mg、高濃度製剤) | 2018年11月承認 | 未承認 |
| Egrifta WR(F8製剤、週1回調製) | 2025年3月25日承認・2025年9月発売 | 未承認 |
日本では適応の有無にかかわらず未承認で、国内で処方を受ける手段はありません。米国でも承認は HIV 関連リポジストロフィーに限られ、欧州では2010年に承認申請が取り下げられています。
ペプチ堂管理人の本音
テサモレリンが人気なのは、「承認薬で内臓脂肪が15%減る」という数字がひとり歩きしているからだと僕は見ています。
でもその数字は HIV 患者のものです。しかも中止したら戻る。
僕は GLP-1 系の減量薬を肯定する立場ですが、それは何万人規模の第III相で体重も心血管リスクも動かしたからです。テサモレリンはその物差しに乗っていません。
「成長ホルモンを自前で出させるから自然」という売り文句も引っかかります。IGF-1 が上がる以上、リスクは外因性 GH と地続きです。
承認薬であることと、自分の目的に承認されていることは、まったく別です。そこを混同した使い方は、僕が一番嫌う「承認薬の名前を借りた乱用」です。
言い換えるなら、承認とは「この病気の、この使い方については、審査に耐えるデータがあります」という限定つきの証明書です。名前だけを持ち出して範囲を広げると、証明書の効力はどこにも残りません。テサモレリンはその限定がとりわけはっきりしている薬なので、なおさら気になります。
よくある質問
Q. テサモレリンは何に承認されている? A. 米国では、HIV 感染者のリポジストロフィーに伴う過剰な腹部内臓脂肪の減少に承認されています。それ以外の目的(一般的な肥満、美容、アンチエイジング)は適応外です。
Q. 体重は減る? A. 第III相試験では内臓脂肪面積と胴囲は減りましたが、体重そのものの変化はわずかでした。減量薬ではありません。
Q. 成長ホルモン注射と何が違う? A. テサモレリンは下垂体を刺激して自分の成長ホルモンを分泌させる GHRH アナログです。ただし IGF-1 が上昇する点は共通で、リスクがないわけではありません。
Q. 日本で使える?違法? A. 日本では未承認で、国内で処方は受けられません。自己使用目的の個人輸入は即違法ではありませんが、救済制度の対象外です。ペプチ堂は勧めません。医薬品の個人輸入のルールを参照してください。
関連する成分
- チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド) — 体重そのものを減らす承認薬との違い
- セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ/リベルサス)
- セルモレリン(Geref) — 同じ GHRH 系で、承認が消えた例
- GHK-Cu — 同じく「承認」と「流通」が混同されやすい成分
出典
- Falutz J, Allas S, Blot K, et al. Metabolic effects of a growth hormone-releasing factor in patients with HIV. N Engl J Med. 2007;357(23):2359-70.(PMID: 18057338/第III相)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18057338/
- Falutz J, Mamputu JC, Potvin D, et al. Effects of tesamorelin (TH9507), a growth hormone-releasing factor analog, in HIV-infected patients with excess abdominal fat: a pooled analysis of two multicenter, double-blind placebo-controlled phase 3 trials with safety extension data. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95(9):4291-304.(PMID: 20554713)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20554713/
- Stanley TL, Feldpausch MN, Oh J, et al. Effect of tesamorelin on visceral fat and liver fat in HIV-infected patients with abdominal fat accumulation: a randomized clinical trial. JAMA. 2014;312(4):380-9.(PMID: 25038357)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25038357/
- Stanley TL, Fourman LT, Feldpausch MN, et al. Effects of tesamorelin on non-alcoholic fatty liver disease in HIV: a randomised, double-blind, multicentre trial. Lancet HIV. 2019;6(12):e821-e830.(PMID: 31611038)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31611038/
- Mayfield CK, Bolia IK, Feingold CL, et al. Injectable Peptide Therapy: A Primer for Orthopaedic and Sports Medicine Physicians. Am J Sports Med. 2026;54(1):223-229.(PMID: 41476424、本稿でNCBI E-utilitiesにより直接確認)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41476424/
- FDA. Drugs@FDA — EGRIFTA(tesamorelin acetate)BLA 022505、Theratechnologies。処方薬として登録されている. https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/daf/index.cfm?event=overview.process&ApplNo=022505
- 米国での承認適応は HIV 関連リポジストロフィーに伴う腹部脂肪蓄積の減少に限られる。「痩せ薬」として承認されたものではない。日本:未承認
- FDA承認ペプチド一覧




