「離婚リスク2倍」の出典をたどったら、2018年の胃バイパス手術の論文だった
2026年春以降、英語圏で広まった「オゼンピックで離婚リスクが2倍になる」という報道の出典をPMIDで直接照合したところ、GLP-1薬を一度も扱っていない2018年のバリアトリック手術研究で、引用されている「2倍」という数字も実際は離婚ではなく結婚の確率だったと判明した。
出典:JAMA Surgery(2018年)・PMID 29590289(本稿でNCBI E-utilitiesにより直接確認)
2026年春以降、英語圏の複数メディアが「オゼンピックなどGLP-1薬で離婚リスクが2倍になる」と報じている。
根拠とされる「スウェーデンの研究」を本稿がPMIDで直接照合したところ、GLP-1薬を一度も扱っていない、2018年のバリアトリック手術(胃バイパス等)の研究だった。
さらに報道で使われている「2倍」という数字自体も、実際の論文では離婚ではなく、独身者が結婚・新しい関係を持つ確率のハザード比だった。
「スウェーデンの研究」という一言で、ここまで広まるとは思わなかった。
何が報じられているのか
2026年春以降、ladbible・AOL・Fox News系列・divorce.lawなど英語圏の複数メディアが、「オゼンピックなどGLP-1薬を使うと離婚リスクが2倍になる」という内容を報じている。記事の多くは根拠として「スウェーデンの研究」を挙げ、具体的な数字として「2倍」や「2.03倍」を引用している。
出典を直接たどってみた
本稿がNCBI E-utilitiesを使って、この手の記事が参照している論文をPMID 29590289として特定し、全文抄録を直接取得して照合した。該当論文はJAMA Surgery誌(2018年7月号、153巻7号、654-661ページ、著者Bruze・Holmin・Peltonen他)に掲載されたものだ。
照合して分かったのは次の3点だ。
- この論文はGLP-1薬を一度も調べていない。 対象は1987年から2015年にかけて行われた、ガストリックバンディングや胃バイパスなどのバリアトリック手術(肥満外科手術)を受けた患者だ。GLP-1薬が普及する前のデータで、薬の名前は論文に一度も出てこない。
- 離婚の調整ハザード比は1.28〜1.41で、「2倍」ではない。 スウェーデンの2つのコホート(SOS・SOReg)で、手術を受けた既婚者の離婚リスクはそれぞれ1.28倍(95%信頼区間1.03-1.60)、1.41倍(95%信頼区間1.33-1.49)と報告されている。
- 報道で使われている「2.03倍」という数字は、離婚の数字ではない。 論文内でこの値が対応するのは、手術当時に未婚だった人が、その後結婚または新しい関係を持つことになったハザード比(SOSコホート、95%信頼区間1.52-2.71)だった。
つまり、「薬ではなく手術」「離婚ではなく結婚(新しい関係)」という、2段階のすり替えが起きた状態で広まっていたことになる。
なぜこうなったのか
本稿の調査では、どの時点でこのすり替えが起きたかまでは特定できていない。可能性としては、バリアトリック手術とGLP-1薬がどちらも「大幅な減量をもたらす治療」として同じ文脈で語られることが多く、どこかの記事で出典の確認なしに「痩せ薬」とまとめられ、そのまま広まったことが考えられる。いずれにせよ、元の論文を一次確認すれば数分で分かる食い違いが、複数の大手メディアを通過して拡散した。
ヤバい点は?
- 本稿が確認したのは、報道で広く引用されているこの1本の論文との照合結果であり、GLP-1薬と離婚・結婚の関係そのものを調べた研究の存在を否定するものではない
- バリアトリック手術後の離婚リスク上昇自体(1.28〜1.41倍)は、この論文が報告している内容であり、これ自体を否定するものではない
- 「GLP-1薬の使用が独身者の結婚・就業に影響した」という、今回とは別の新しい研究(査読前)については関連記事で既に報じている
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出典
- Bruze G, Holmin TE, Peltonen M, et al. Associations of Bariatric Surgery With Changes in Interpersonal Relationship Status. JAMA Surg. 2018;153(7):654-661. PMID 29590289(本稿でNCBI E-utilitiesにより全文抄録を直接確認)
- ladbible・AOL・Fox News系列・divorce.law等、2026年春以降の複数の英語圏記事(本稿でWebSearch確認、引用元として「スウェーデンの研究」を挙げている)