60万人のデータが、静かに『依存症にも効く』と言っていた
米退役軍人省の2型糖尿病患者60万人超を追跡した大規模研究で、GLP-1受容体作動薬を始めた人はアルコール・大麻・オピオイドなど5種類の依存症リスクが軒並み低下していたとBMJに報告された。すでに依存症がある人では死亡率も半減していた。
出典:The BMJ
米退役軍人省の60万人超のデータを分析した研究が、GLP-1受容体作動薬を始めた人は5種類の依存症のリスクが軒並み下がっていたとBMJに報告した。
すでに依存症がある人でも、関連する救急受診・入院・死亡のリスクが大きく下がっていた。
研究は観察データであり、原因と結果を証明したものではない。
米退役軍人省(VA)の2型糖尿病患者606,434人を対象にした大規模コホート研究が、GLP-1受容体作動薬の意外な一面を数字で示しました。
何が分かったのか
研究チーム(Cai M・Choi T・Xie Y・Al-Aly Zの4氏)は、GLP-1受容体作動薬を新しく始めた患者と、同じ2型糖尿病治療薬であるSGLT-2阻害薬を始めた患者を比較しました。GLP-1群では、新規に依存症と診断されるリスクが、アルコール使用障害でハザード比0.82、大麻使用障害で0.86、コカイン使用障害で0.80、ニコチン使用障害で0.80、オピオイド使用障害で0.75と、いずれも低下していました。5種類をまとめた複合指標でも0.86でした。
さらに、すでに何らかの依存症と診断されていた患者に限っても、GLP-1受容体作動薬を始めた後の転帰は改善していました。依存症関連の救急受診はハザード比0.69、入院は0.74、依存症関連の死亡は0.50、薬物過量摂取は0.61、希死念慮・自殺企図は0.75と、いずれも3年間の追跡で低下しています。
この論文は2026年3月4日にBMJへ掲載されました(PMID 41781010、doi: 10.1136/bmj-2025-086886)。本稿ではNCBI E-utilities経由で抄録原文を直接確認しています。
単発の結果ではない
「GLP-1が依存症に効くかもしれない」という報告は、この研究だけではありません。すでにアルコール使用障害を対象にした無作為化比較試験がLancetに掲載され、大量飲酒の日が4割以上減ったと報告されているほか、米退役軍人省自身も全米19施設・622人規模の第3相治験「CRAVE」を2026年7月に開始しています。禁煙に絞った臨床試験も存在し、スイス・バーゼル大学病院がエキセナチドとニコチンパッチを組み合わせたランダム化比較試験(登録256人、第2相、完了)をClinicalTrials.govに登録しています(NCT03204396、本稿でAPI直接確認)。アルコール・ニコチン・オピオイド・コカイン・覚醒剤の使用障害を対象にした研究は、米国だけで30件超が進行中とも報じられています。
ヤバい点は?
- 今回の研究は観察研究です。GLP-1を選んだ人とSGLT-2阻害薬を選んだ人の間に、依存症リスクに関わる別の違いがあった可能性は排除できません。ランダム化比較試験のような因果関係の証明ではありません
- GLP-1受容体作動薬は、日米ともに依存症治療薬としては未承認です。承認された効能は糖尿病・肥満症であり、依存症目的の使用は適応外にあたります
- 適応外使用で健康被害が生じても、医薬品副作用被害救済制度の対象外です
関連する成分
- セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ/リベルサス)
- チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)
- 大量飲酒の日を41%減らした薬が、認知症では惨敗した
- 「太らせない薬」で、退役軍人省がアルコール依存症の治験を始めた
出典
- Cai M, Choi T, Xie Y, Al-Aly Z. “Glucagon-like peptide-1 receptor agonists and risk of substance use disorders among US veterans with type 2 diabetes: cohort study.” The BMJ. 2026年3月4日. doi: 10.1136/bmj-2025-086886(PMID 41781010、本稿でNCBI E-utilities経由の抄録原文を直接確認)
- ClinicalTrials.gov「Combination Therapy for Smoking Cessation」NCT03204396(公開APIで直接照会)
- US News & World Report「Can GLP-1s Help With Addiction?」2026年