痩せ薬「二強」の決着

チルゼパチド vs セマグルチド 徹底比較【2026年版】

マンジャロ/ゼップバウンドのチルゼパチドと、オゼンピック/ウゴービ/リベルサスのセマグルチド。何が違うのか。直接比較試験SURMOUNT-5の20.2%対13.7%、心血管データの差、日本での適応と剤形の違いを、一次情報だけで表にして整理します。

チルゼパチド vs セマグルチド 徹底比較【2026年版】

チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)は鍵穴を2つ、セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ/リベルサス)は1つ叩く。ここが根本的な違い。

唯一の直接比較試験 SURMOUNT-5 では、72週の減量幅が 20.2% 対 13.7% でチルゼパチドが上回ったと報告されている。

ただし「心臓を守る」証拠の量ではセマグルチドが先行し、飲み薬があるのもセマグルチドだけ。どちらが上かは何を見るかで変わる。

結論(3行)

チルゼパチドとセマグルチドとは、いずれも食欲と血糖に関わるホルモンの受容体に作用する、週1回注射(一部は経口)の承認薬である。 減量幅を直接比較した唯一の第III相試験 SURMOUNT-5 では、72週時点でチルゼパチドが平均20.2%、セマグルチドが13.7%の体重減少を示したと報告されている。 一方で心血管イベントに関する証拠の蓄積、経口剤の有無、日本での適応の広さはそれぞれ状況が異なり、「減量幅だけで優劣が決まる薬ではない」というのが2026年時点の共通理解である。

1. そもそも何が違う?——鍵穴の数

いちばん本質的な違いは、作用する受容体(細胞の鍵穴)の数です。

  • セマグルチドGLP-1 受容体だけに作用する(単一作動薬)
  • チルゼパチド:GLP-1 受容体に加えて GIP 受容体にも作用する(二重作動薬

GLP-1 と GIP はどちらもインクレチンと呼ばれるホルモンで、食事をすると腸から出ます。GLP-1 は食欲を抑え胃の動きを遅らせる方向に、GIP はインスリンの分泌や脂肪組織の働きに関わる方向に作用すると報告されています。

たとえ話にすると、セマグルチドは「玄関の鍵を1つ回す」薬、チルゼパチドは「玄関と勝手口の鍵を同時に回す」薬です。GIP を足したことが減量幅の差につながっているのではないか、というのが有力な見方ですが、機序の詳細はまだ議論が続いています。

なお両者ともアミノ酸が連なったペプチドです。同じ GLP-1 系でもオルフォルグリプロンはペプチドではない低分子で、そこは系統が違います。

2. 減量幅:唯一の直接比較 SURMOUNT-5

2つを同じ試験の中で戦わせた第III相試験が SURMOUNT-5 です(N Engl J Med. 2025、ECO 2025で発表)。

  • 対象:2型糖尿病のない肥満の成人 751人
  • 方法:チルゼパチド(最大耐用量 10mg または 15mg)とセマグルチド(最大耐用量 1.7mg または 2.4mg)を週1回、72週間
  • 結果:チルゼパチド 平均 −20.2%(−22.8kg)/セマグルチド 平均 −13.7%(−15.0kg)
  • 腹囲:チルゼパチド −18.4cm/セマグルチド −13.0cm(p<0.001)
  • 消化器症状による投与中止:チルゼパチド 2.7%/セマグルチド 5.6%

単独の試験での数字も並べておきます。

試験期間平均体重減少
SURMOUNT-1(NEJM 2022)チルゼパチド72週最大 −20.9%
STEP 1(NEJM 2021)セマグルチド 2.4mg68週−14.9%
SURMOUNT-5(NEJM 2025)チルゼパチド vs セマグルチド72週−20.2% vs −13.7%

減量幅という一点に限れば、チルゼパチドが上回ったという報告で一貫しています。

3. 心臓を守る証拠:ここはセマグルチドが先行

減量幅とは別に、「心血管イベントを減らすか」という軸があります。ここは状況が逆です。

  • セマグルチド:SELECT 試験(NEJM 2023)で、糖尿病のない過体重・肥満かつ心血管疾患を持つ人において、心血管イベントが約20%低下したと報告されました。肥満集団での心血管アウトカム試験を完了している点が大きい
  • チルゼパチド:SURPASS-CVOT(13,200人超)で、2型糖尿病を持つ人においてデュラグルチドに対する非劣性を示しました(MACE の HR 0.92、95%CI 0.83–1.01)。ただしこれは「他の GLP-1 薬と同等」を示した試験です。肥満集団を対象とした SURMOUNT-MMO の結果は2027年まで出ない見込みです

つまり2026年8月時点では、「痩せる量ならチルゼパチド、心臓を守る証拠の完成度ならセマグルチド」という整理になります。

4. 剤形と製品名:ここが日本人にはややこしい

同じ成分でも、適応が違えば製品名が変わります。日本語圏の混乱の大半はここが原因です。

成分製品名剤形日本での適応
チルゼパチドマンジャロ週1回注射2型糖尿病
チルゼパチドゼップバウンド週1回注射肥満症、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)
セマグルチドオゼンピック週1回注射2型糖尿病
セマグルチドウゴービ週1回注射肥満症
セマグルチドリベルサス経口(1日1回)2型糖尿病

中身は同じ成分で、違うのは承認された適応です。 マンジャロとゼップバウンドの有効成分はどちらもチルゼパチドです。

剤形で決定的に違うのは、飲み薬があるのはセマグルチドだけという点です。リベルサスは吸収促進剤を使ってペプチドを経口化したもので、空腹時に少量の水で飲むといった条件が添付文書で定められています。チルゼパチドに経口剤はありません。

5. 日本と米国の承認状況

米国(FDA日本(PMDA/厚労省)
チルゼパチドMounjaro(2型糖尿病、2022年)/Zepbound(肥満 2023年、OSA 2024年)マンジャロ(2型糖尿病、2022年)/ゼップバウンド(肥満症 2024年12月、OSA 2026年5月18日)
セマグルチドOzempic(2017年)/Rybelsus(2019年)/Wegovy(2021年)/経口Wegovy 25mg(2025年12月)オゼンピック(2018年)/リベルサス(2020年)/ウゴービ(2023年)。経口ウゴービは未承認

日本で押さえておくべき点が2つあります。

1つ目。ゼップバウンドは2026年5月18日に「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸」の効能追加が承認されました。日本で睡眠時無呼吸の適応を取った初の肥満症治療薬です。マンジャロはこの適応を持ちません。

2つ目。美容・痩身目的の適応外使用は、厚生労働省が明確に注意喚起している領域です。厚労省は2026年6月16日に「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」を通知し、承認された効能・効果や用法・用量の範囲外での使用は安全性と有効性が確認されておらず、思わぬ有害事象につながるおそれがあるとして最大限の注意を求めています。

6. 副作用の比較

両者とも副作用のプロフィールはよく似ています。

  • 共通:悪心・嘔吐・下痢・便秘といった消化器症状。膵炎、胆嚢疾患
  • 共通:米国では甲状腺C細胞腫瘍に関する枠組み警告
  • セマグルチド固有の注意点として、糖尿病網膜症の悪化が挙げられています
  • SURMOUNT-5 では、消化器症状による投与中止はセマグルチド群のほうが多かった(5.6% 対 2.7%)と報告されています

急激な減量に伴って顔がこける現象は俗に「オゼンピックフェイス」と呼ばれますが、これは薬の直接作用ではなく減量そのものの結果と考えられており、どちらの薬でも起こりえます。詳しくはオゼンピックフェイスとGHK-Cuにまとめています。

7. ペプチ堂管理人の本音

僕がこの2つを比べるとき、いちばん警戒しているのは「20.2% 対 13.7%」という数字がひとり歩きすることです。

SURMOUNT-5 は最大耐用量どうしの比較です。つまり両方とも「その人が耐えられる上限まで上げた」条件での結果で、実際の診療でそこまで上げられる人ばかりではありません。しかも試験期間は72週です。5年後、10年後の話は誰も知りません。

そのうえで正直に書くと、僕は「減量幅の競争はもう決着に近い」と思っています。チルゼパチドが20%台に線を引き、レタトルチドが30%近くまで押し上げ、カグリリンチドは直接比較でチルゼパチドに届きませんでした。これ以上「何%痩せるか」を上乗せする競争は、たぶん頭打ちになります。

だから次に効いてくるのは、飲めるか・続けられるか・やめた後どうなるかです。その軸で見ると、飲み薬を持っているセマグルチド陣営はまだぜんぜん終わっていない。減量幅で負けている薬が市場から消えるわけではないんです。

最後にもう一度書きます。どちらも医師の診断のもとで使う処方薬です。個人輸入した製剤で健康被害が出た場合、医薬品副作用被害救済制度の対象外になります。厚労省は GLP-1 製剤について、有効成分が入っていない偽造品や無菌性が確認できない注射針の流通を確認したと公表しています。ペプチ堂は入手先も用量も扱いません。

よくある質問

Q. チルゼパチドとセマグルチド、どちらが痩せる? A. 直接比較した SURMOUNT-5(NEJM 2025)では、72週でチルゼパチド 平均20.2%、セマグルチド 平均13.7%の体重減少が報告されています。減量幅ではチルゼパチドが上回ったという報告です。

Q. マンジャロとゼップバウンドは何が違う? A. 有効成分はどちらもチルゼパチドで同じです。違うのは日本で承認された適応で、マンジャロは2型糖尿病、ゼップバウンドは肥満症と中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸です。

Q. オゼンピックとウゴービとリベルサスの違いは? A. 有効成分はすべてセマグルチドです。オゼンピックは2型糖尿病向けの注射、ウゴービは肥満症向けの注射、リベルサスは2型糖尿病向けの飲み薬です。

Q. 副作用が軽いのはどっち? A. SURMOUNT-5 では、消化器症状による投与中止はチルゼパチド2.7%、セマグルチド5.6%と報告されています。ただし個人差が大きく、この数字が誰にでも当てはまるわけではありません。

Q. 痩せる目的で個人輸入してもいい? A. ペプチ堂は勧めません。厚生労働省は偽造品の流通を理由に注意喚起しており、健康被害が生じても医薬品副作用被害救済制度の対象外です。適応外使用についても厚労省が2026年6月に注意喚起の通知を出しています。

関連記事

出典

  • Aronne LJ, et al. Tirzepatide as Compared with Semaglutide for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2025.(SURMOUNT-5)
  • Jastreboff AM, et al. Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2022;387:205-216.(SURMOUNT-1)
  • Wilding JPH, et al. Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. N Engl J Med. 2021;384:989-1002.(STEP 1)
  • Lincoff AM, et al. Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes. N Engl J Med. 2023;389:2221-2232.(SELECT)
  • SURPASS-CVOT(チルゼパチド対デュラグルチド、2025年 EASD で発表)
  • 厚生労働省「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」2026年6月16日通知
  • 日本イーライリリー「ゼップバウンド皮下注アテオス」閉塞性睡眠時無呼吸の効能・効果追加承認、2026年5月18日
本記事は研究・教育目的の情報提供です。医学的助言ではありません。最終更新:2026-08-22