カグリリンチド(カグリセマ)Cagrilintide / CagriSema
GLP-1じゃない痩せホルモン「アミリン」の一番手

ノボ ノルディスクが開発中の週1回注射。GLP-1 ではなく「アミリン」という別のホルモンの受容体(細胞の鍵穴)に効く。
海外ではセマグルチドと1本にまとめた配合剤「カグリセマ」が本命扱い。第III相で68週20.4%減が報告されている。
日米ともに未承認。米国では2025年12月に承認申請が出され、2026年内の判断が見込まれている。
結局、なにをする成分?
カグリリンチド(Cagrilintide、開発コード AM833)は、アミリンというホルモンを真似して作られた長時間作用型のペプチドです。日本語では「カグリリンタイド」とも書かれます。
アミリンは、インスリンと一緒に膵臓から出るホルモンです。役割は「もう食べなくていい」という信号を脳に送ること。胃の中身が出ていく速度を落とし、満腹感を長引かせる働きが報告されています。
GLP-1 との違いを、たとえ話で書きます。
- GLP-1:食欲のアクセルを踏みにくくする係。空腹の信号そのものを弱める
- アミリン:食事の途中で「もう十分」とブレーキを踏む係。満腹の信号を強める
作用する鍵穴が違うので、両方を同時に使えば足し算になるのでは、というのが開発の発想です。それを1本の注射にまとめたのが カグリセマ(CagriSema)——カグリリンチド2.4mgとセマグルチド2.4mgの配合剤です。
つまり「カグリリンチド」は成分名、「カグリセマ」は製品名だと理解しておくとズレません。
なぜ海外でバズってるのか
理由は2つあります。
1つ目は、GLP-1 の次の主戦場がアミリンだと言われ始めたこと。2026年に入ってから、アミリン受容体作動薬は肥満治療の次のフロンティアとして扱われるようになりました。ノボ ノルディスクのカグリリンチドはその一番手で、イーライリリーの eloralintide などが後を追う構図です。
2つ目は、セマグルチド単剤の限界を超えた数字が出たこと。第III相 REDEFINE 1 では、カグリセマがセマグルチド単剤(14.9%減)やカグリリンチド単剤(11.5%減)を上回りました。
ただし、2026年2月のニュースで空気は少し変わりました。チルゼパチドとの直接比較(REDEFINE 4)で、カグリセマは主要評価項目である非劣性を示せなかったのです。「本命」から「有力な2番手」に評価が動いた、というのが英語圏の受け止め方です。
で、効くの?
| 研究の段階 | 状況 |
|---|---|
| ヒト第III相 | ○ REDEFINE 1/2/4(配合剤カグリセマとして) |
| ヒト第II相 | ○ |
| 動物 | ○ |
| 試験管 | ○ |
報告されている代表的な数字です。いずれもカグリセマ(配合剤)としての結果です。
- REDEFINE 1(糖尿病のない肥満・過体重):68週で平均 −20.4%、プラセボ −3.0%。半数超が20%以上の減少に到達したと報告(N Engl J Med. 2025)
- REDEFINE 1 の比較群:セマグルチド単剤 −14.9%、カグリリンチド単剤 −11.5%
- REDEFINE 2(2型糖尿病を併発):約15か月で平均 −13.7%、プラセボ −3.4%
- REDEFINE 4(チルゼパチドとの直接比較、非盲検・84週・809人):カグリセマ −23.0%、チルゼパチド −25.5%(efficacy estimand)。主要評価項目である非劣性は達成できず(2026年2月発表)
REDEFINE 1 では、前糖尿病だった参加者の88%が正常な血糖値に戻ったとも報告されています。血圧・腹囲・脂質の改善も併せて報告されました。
数字だけ見れば強いのですが、直接比較で負けた事実のほうが規制と市場では重く扱われます。
ヤバい点は?
- 消化器症状:悪心・嘔吐・下痢。GLP-1 系薬と共通し、アミリン側も胃排出を遅らせるため重なる可能性があります
- 長期安全性が未確立:数年単位のデータはまだありません
- やめた後:GLP-1 系薬では中止後に体重がかなり戻ることが報告されています。カグリセマで「やめた後」がどうなるかは分かっていません
- 日本人データがない:日本人集団での結果は公表されていません
- 未承認:日米ともに未承認です。海外通販で「Cagrilintide」として売られている粉末は承認薬でも治験薬でもなく、中身の保証がありません。健康被害が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外です
- 「アミリン単剤」の実力が不明:話題になっているのは配合剤のカグリセマであって、カグリリンチド単剤の位置づけはまだ固まっていません
日本と米国の今
| 米国(FDA) | 日本(PMDA/厚労省) | |
|---|---|---|
| 承認状況 | 未承認。2025年12月18日にカグリセマの承認申請(NDA)を提出 | 未承認 |
| 見込み | 2026年内の審査が見込まれると報じられている。PDUFA 日は非公表 | 承認申請の有無・時期ともに公表されていない |
日本では承認されていないため、国内の医療機関で処方を受けることはできません。
ペプチ堂管理人の本音
僕がカグリリンチドに注目している理由は、減量幅ではありません。「GLP-1 じゃない道」を最初に第III相まで持っていったことです。
ここ数年、痩せ薬の話はほぼ全部 GLP-1 の話でした。GIP を足す、グルカゴンを足す——足し算の方向は違っても、土台は同じ。アミリンはそこから外れた別系統です。系統が増えるということは、GLP-1 が合わなかった人に別の選択肢が生まれるということでもあります。僕はそっちのほうが大事だと思っています。
ただ、REDEFINE 4 でチルゼパチドに非劣性を示せなかったのは、正直かなり痛い。「20%台後半」が当たり前になった今の基準線で、23.0% 対 25.5% という差は市場では効きます。しかも同じ試験でチルゼパチドが25.5%を出したことのほうがニュースだった、という皮肉な状況でした。
それでも僕は、カグリセマは承認されると読んでいます。理由は、減量幅の勝負がそろそろ終わりに近づいているからです。これからは「楽か」「安いか」「戻らないか」の勝負になる。アミリンという別ルートは、そこで意味を持つはずです。使用は勧めません。日本での承認を待ちます。
よくある質問
Q. カグリリンチドとカグリセマの違いは? A. カグリリンチドは成分名(アミリン受容体作動薬)、カグリセマはカグリリンチドとセマグルチドを配合した製品名です。話題になっているのはほぼカグリセマのほうです。
Q. GLP-1 薬と何が違う? A. 効く受容体(細胞の鍵穴)が違います。GLP-1 が空腹の信号を弱めるのに対し、アミリンは満腹の信号を強めると報告されています。カグリセマは両方を1本にまとめた設計です。
Q. どのくらい痩せる? A. 第III相 REDEFINE 1 では68週で平均20.4%の体重減少が報告されています。チルゼパチドとの直接比較(REDEFINE 4)では23.0%対25.5%で、非劣性は示せませんでした。
Q. 副作用は? A. 悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状が報告されています。長期の安全性は未確立です。
Q. 日本で使える? A. 2026年8月時点で未承認です。承認申請の有無も公表されていません。個人輸入品で健康被害が出ても救済制度の対象外です。
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出典
- Novo Nordisk. Coadministered Cagrilintide and Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. N Engl J Med. 2025.(REDEFINE 1)
- REDEFINE 2(2型糖尿病併発集団)第III相結果、2025年公表
- Novo Nordisk:REDEFINE 4(対チルゼパチド直接比較)トップライン発表、2026年2月
- Novo Nordisk:カグリセマの米国 NDA 提出発表、2025年12月18日
- Lau DCW, et al. Once-weekly cagrilintide for weight management. Lancet. 2021.(第II相)
- 医薬品の個人輸入のルール
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