6月16日、国が全国の病院に「やせ薬として出すな」と文書を送っていた
厚労省が2026年6月16日、GLP-1受容体作動薬の適正使用について都道府県へ通知を発出した。美容・痩身目的の適応外使用の実態を確認したうえで、自由診療の広告規制と副作用報告のルールを明記している。一次資料を確認した。
執筆:ペプチ堂管理人/最終更新:2026-08-26

2026年6月16日、厚生労働省が都道府県などに向けてGLP-1受容体作動薬等の適正使用に関する通知を出した。
理由は、美容・痩身目的での適応外使用の実態確認。広告規制と副作用報告のルールを明記している。
同じ時期、日本イーライリリーも個人間売買・転売への懸念を自社サイトで表明していた。
「マンジャロは痩せ薬」というイメージはすでに広く定着しています。しかし、マンジャロ(チルゼパチド)が正式に承認されているのは2型糖尿病と一定の基準を満たす肥満症であり、「とりあえず痩せたい」という目的での使用は、法律上は適応外です。この適応外使用について、国が2026年6月16日付で文書を出していたことが、一次資料の確認で分かりました。
何が書かれていたのか
厚生労働省のウェブサイトで公開されている通知本体(医薬安発0616第16号/医政総発0616第1号/医政産情企発0616第1号、令和8年6月16日付)を直接確認しました。宛先は都道府県・保健所設置市・特別区の衛生主管部局です。
通知の出発点は、次の一文です。
一部の医療機関において2型糖尿病及び肥満症の治療目的以外に美容や痩身を目的に使用されている実態があることが確認されています。
そのうえで、承認された効能・効果や用法・用量の範囲を外れて使用した場合、安全性・有効性は確認されていないこと、低血糖症状や急性膵炎といった重大な副作用が承認範囲内の使用でも起こり得ることを踏まえ、電子添文(電子化された添付文書)に基づく適正使用の徹底を求めています。
承認の条件、あらためて
通知には、肥満症治療薬として承認されているセマグルチド製剤の「効能又は効果」の項が参考として引用されています。
- 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない場合に限る
- BMIが27kg/m²以上で、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する、または
- BMIが35kg/m²以上
つまり、「痩せたいから使う」という動機だけでは、承認された使い方の範囲に入りません。通知はこの点を、あらためて医療現場に確認させる内容になっています。
広告についての踏み込んだ記述
通知のもう一つの柱が、広告規制です。
- 国内未承認・適応外の医薬品等を用いた自由診療に関する広告は、原則禁止
- ウェブサイト等は例外的に広告が可能だが、問い合わせ先の明示、通常必要な治療内容・費用・リスク・副作用等の情報提供が必要
- 虚偽広告、他院と比較して優良である旨の広告、「印象」や「期待感」と実際の内容に相違がある表現、科学的根拠が乏しいまま有効性を強調して特定の処置に誘導する表現は、いずれも誇大広告として禁止
さらに、副作用等報告の際に適応外使用が明らかな場合は、報告様式の「使用理由」欄に「適応外使用(美容目的)」等と明記するよう医療関係者に求めています。行政が単に「気をつけて」と言うだけでなく、報告の記録に残す運用まで踏み込んでいる点が特徴です。
供給不足が理由ではない、という一文
通知には、こう明記されています。
現時点においては、いずれのGLP-1受容体作動薬等も通常出荷となっており、供給状況に問題ないことを申し添えます。
つまりこの通知は、「薬が足りないから美容目的の処方を控えて」という需給調整の話ではありません。あくまで適応外使用そのものの安全性・広告のあり方を問題にしている、という位置づけです。
同じ時期、日本イーライリリーも自社サイトで、個人間の医薬品売買・転売について「薬機法違反であり容認できない」との立場を表明しています。国とメーカー、双方が同じ月に、同じ方向のメッセージを出していたことになります。
ヤバい点は?
- この通知は罰則を新設するものではなく、既存のルール(薬機法の広告規制・副作用報告義務)の周知徹底です
- 「適応外だから一律に危険」という単純化はできません。医師の判断による適応外処方自体は医療上ありえますが、安全性・有効性が承認範囲と同じように確認されているわけではないという前提を、行政が改めて明文化した形です
- 通知の実効性(実際に医療機関の運用がどう変わったか)は、この記事の時点では確認できていません
日本と米国の今
| 日本 | 米国 | |
|---|---|---|
| 承認されている用途 | 2型糖尿病・一定基準を満たす肥満症 | 2型糖尿病・肥満症など(製品ごとに異なる) |
| 美容・痩身目的の扱い | 適応外。2026年6月に国が注意喚起の通知を発出 | 適応外処方は州法・医師の裁量に依存し、規制の枠組みが異なる |
| 広告規制 | 未承認・適応外の自由診療広告は原則禁止 | 直接消費者向け広告(DTC)自体は合法だが、表示内容を巡り訴訟も発生 |
ペプチ堂管理人の本音
この手の行政文書は、地味で読まれにくいものだと思います。でも今回、一次資料を実際に読んでみて、僕が一番印象に残ったのは「供給状況に問題ない」という一文でした。薬が足りないから絞った、という話ではない。あくまで「承認された範囲を外れた使い方が広がっていること」自体を問題視している、という立て付けです。
広告規制の部分も、思ったより具体的でした。「印象」や「期待感」と実際の内容に相違がある表現まで名指しで禁止対象に挙げているのは、美容医療の広告でありがちな表現そのものを念頭に置いているのだろうと感じます。
正直、この通知一本で何かが劇的に変わるとは思いません。ただ、「日本は海外から3年遅れている」という語られ方をよくされるこの分野で、行政が2026年6月という時点で、広告規制まで含めた具体的な文書を出していたという事実は、記録しておく価値があると思います。
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出典
- 厚生労働省「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」医薬安発0616第16号/医政総発0616第1号/医政産情企発0616第1号(令和8年6月16日付、mhlw.go.jp/content/001720946.pdf)